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リサーチ・技術解説公開 2026-06-28更新 2026-06-29

Web3資金調達ウィークリー(6/22-6/28)|予測市場Kalshiが$40B評価を協議、Onyx Oddsが$20M、SBIがBitbankを$289Mで買収

6月22〜28日の週のWeb3資金調達は、相場が下げるリスク回避の局面で進みました。米国の中央銀行にあたる米連邦準備制度は6月18日の会合で政策金利を据え置き、利下げをにおわせる言い回しを声明から外しました。新しく議長に就いたKevin Warsh氏のタカ派(金融引き締めに前向きな姿勢)が意識され、ドルと米国の金利が上がり、ビットコインは週の半ばに$62,000台まで下げ、週間で4%超下落しました。値動きで稼ぐ投機的な資金が細るなかで、この週に資金がもっとも集まった先は、相場そのものではなく「将来の出来事の結果に賭ける」予測市場でした。

予測市場(prediction market)とは、選挙やスポーツの試合、経済指標といった現実の出来事について「起きるか、起きないか」を売買し、その価格を確率の目安として扱う市場の仕組みです。この週は、規制下で予測市場を運営するKalshiが約$40Bの評価額での調達を協議していると報じられ、Kraken(暗号資産取引所)の親会社Paywardがスポーツ予測アプリのOnyx Oddsに$20Mを出資しました。さらに、予測市場と無期限先物(後述します)を一つにまとめる新興企業にも資金が入っています。予測市場が暗号資産の取引アプリや先物と近づきながら、一つの「イベント取引」という領域に育ちつつあります。この週の資金の流れは、その動きをはっきり示しました。

予測市場と取引アプリが「イベント取引」へ近づく

予測市場をめぐる動きが、この週の資金の流れの中心でした。評価額の急騰、取引量の拡大、そして無期限先物への参入という三つの面で、予測市場が暗号資産の取引アプリと一つの領域へ近づいています。

Kalshiの評価額は18か月で8倍、$40B協議へ

評価額の面でもっとも大きな動きを見せたのが予測市場のKalshiです。Financial Timesは6月24日、Kalshiが約$40Bの評価額で新たな資金調達を協議していると報じました。これはあくまで交渉段階の話で、調達額や参加投資家は確定していません。ただ、その評価額の水準が際立っています。Kalshiの評価額は2025年初めの約$5Bから、2025年12月に$11B、2026年5月のCoatue主導のラウンド($1B調達、Sequoia・a16z・Morgan Stanleyが参加)で$22Bへと上がってきました。$40Bが実現すれば、わずか1か月前からほぼ倍増、約18か月で8倍規模になります。

取引量の伸びが評価を支える

この評価額は、取引量の伸びに支えられています。Kalshiの月間取引高は1年前の$5B未満から、直近では$17Bを超える水準まで増えました。調査会社Bernsteinの集計では、2026年5月の月間取引高はKalshiが$17.9B、競合のPolymarketが$7.1Bで、Kalshiが大きく上回っています。なかでもスポーツ関連の契約が取引高の約65%を占める主力です。CEOのTarek Mansour氏はIPO(株式公開)について「今年はやらない」と述べており、上場するとしても2027年以降になる見通しです。

予測市場が無期限先物へ広がる

Kalshiが象徴するのは、予測市場が単独の市場にとどまらず、暗号資産の取引そのものへ広がろうとしている点です。CNBCは5月、Kalshiが「予測市場の枠を越えて、暗号資産でもっとも大きな取引領域の一つに入り込もうとしている」と報じました。その領域とは、無期限先物(perpetual futures、満期がなく、期限を気にせずに持ち続けられる先物のような商品です)です。KalshiもPolymarketも、この無期限先物の取り扱いに乗り出そうとしています。報道では、両社の合算取引高は2025年通年の$50Bから、2026年はすでに$130Bを超えたとされています。出来事の結果を売買する「イベント取引」への需要が、はっきり膨らんでいます。

KrakenのPaywardがOnyx Oddsに出資する

この週の調達は、この広がりを別の角度から裏づけました。Kraken(世界190カ国以上で1,500万人超が使う暗号資産取引所)の親会社Paywardは、スポーツ予測アプリのOnyx OddsのSeries Aを主導し、$20Mを出資しました(評価額$220M、XfundとBreyer Capitalも参加)。Onyx Oddsは現金を直接賭ける従来型の賭け事ではなく、無料で遊べて賞品を現金化できる「スイープステークス」型のアプリで、米国の30以上の州で約100万人が利用しています。資金の使い道にも、この方向がはっきり出ています。Onyx Oddsはこの資金で、Payward Services(CFTCに登録された先物取次業者や指定取引所などを備える基盤)を借りて、アプリ内に暗号資産取引や規制対象のイベント契約、無期限先物までを組み込み、無料の予測アプリから消費者向けの取引プラットフォームへ広げる構想を示しています。2025年11月にはPolymarketとの提携も報じられており、予測アプリと取引所が一つになる流れの先頭にいます。

取引アプリのFomoも同じ方向、$75Mを調達

取引アプリの側からも、同じ方向への動きが見えます。この週で最大の調達は、ソーシャル機能を備えたオンチェーン取引アプリのFomoです。Index Venturesが主導するSeries Bで$75Mを集め、評価額は$550Mに達しました(Union Square Venturesらが参加)。Fomoは2026年6月に無期限先物の取り扱いを加えたばかりで、今後は予測市場や株式のトークン化まで広げ、「オンチェーン資産への入り口」になることを掲げています。取引アプリが予測市場と先物を取り込み、予測市場アプリが取引機能を取り込む。両側から同じ「イベント取引」の真ん中に向かっているのが、この週の構図です。同じ領域では、予測市場と無期限先物を一つの環境にまとめるTurboFlowが、Pantera Capital主導のSeedで$6Mを調達し(DCG・Susquehanna Crypto参加)、自らを「APAC(アジア太平洋地域)のKalshi」と位置づけました。市場の急成長は、それを監視する側の需要も生んでいます。予測市場の不正な取引を検知する分析基盤のPolysightsは$1.5Mを調達しました(Polymarketらが支援)。

予測市場と取引アプリが「イベント取引」へ近づくことを示す収れん図。左上は予測市場側でKalshi(約$40B評価で調達協議)とOnyx Odds($20M・Kraken親会社Payward主導)。右上は取引アプリ側でFomo($75M・週最大)とTurboFlow($6M・予測市場と無期限先物を統合)。両側から矢印が中央下の「イベント取引」へ向かい、予測市場・取引アプリ・無期限先物(perps)が一つの取引カテゴリへ近づいていることを示す。

$40B評価には反証もある

ただし、この熱量には正直な但し書きが要ります。$40Bという評価額が実態に見合うのかには疑問の声があります。暗号資産メディアの99bitcoinsは、Kalshiの法的な足元の不安定さを指摘しています。予測市場を国(CFTC)と州のどちらが規制するかをめぐる対立が激しくなっており、2026年3月にはArizona州が刑事告発、1月にはMassachusetts州の裁判所がスポーツ市場を差し止め、Nevada州は予測市場の禁止を延長しました。さらにMetaが予測市場アプリ「Arena」を開発中と報じられるなど、大手の参入も控えています。評価額の急騰が続く一方で、規制の決着と競争の激化という二つの不確実性が同時に積み上がっている点は、見落とせません。

機関のオンチェーン金融を支えるデータ・基盤に、AIエージェントを見据えた資金

予測市場の熱気とは別に、この週は金融機関がブロックチェーンを使うときに必要になる、データ整備やAPI基盤といった裏方の層にもまとまった資金が入りました。

この層で最大の案件は、ブロックチェーンデータ企業のAlliumでした。Amplify Partnersが主導するSeries Bで$40Mを調達しています(Kleiner Perkins・Theory Venturesが参加)。ブロックチェーン上の取引記録は誰でも見られますが、生のデータは形式がばらばらで、そのままでは集計や分析が難しい状態にあります。Alliumは150を超えるネットワークのデータを、金融機関がそのまま使える形に整える作業を担っています。顧客にはVisaやBoston Consulting Group、a16zの暗号資産部門やCoinbaseが並び、米連邦準備制度やスタンフォード大学にもデータが引用されています。ここで出資を主導したAmplify PartnersのDavid Beyer氏は、「いちばん大きな伸びしろはエージェント領域だ」と述べました。ここで言うエージェントとは、人の指示を逐一待たずにブロックチェーン上で取引や処理を進めるAIのことです。AIが自律的に金融取引を行うには、その判断の土台になる正確なデータが要ります。資金がデータ基盤に向かう理由は、この見立てにあります。

同じ「データの層」を狙う動きは、ほかにもありました。オンチェーンとオフチェーンのデータを金融向けに整えるCambrianは、Polychain CapitalとFranklin Templetonが共同で主導するSeedで$6Mを調達しています。Franklin Templetonは運用資産が$1.5Tを超える伝統的な資産運用会社で、その参加は、機関マネーがこの領域を見ている表れといえます。Cambrianも、利用者として自律的に動くAIエージェントを明確に挙げています。また、銀行やフィンテックが手元のステーブルコイン(価格を米ドルなどに固定した暗号資産)や現金にオンチェーンの利回りを付けられるAPI基盤のGroundは、Bain Capital CryptoとParaFi Capital共同主導のPre-seedで$3.6Mを集めました。

この流れは、買収の形でも表れています。決済企業のMoonPayは、Web3企業向けにAIで会計・簿記を自動化するEntendre Financeを買収しました(買収額は非公開)。MoonPayはこれを、ステーブルコインを軸にした「エージェント型のファイナンス(agentic finance)」を強化する動きと位置づけています。背景には、業界共通の見立てがあります。CoinDeskは5月、「AIエージェントと大企業が、次のステーブルコインの普及を引っ張る」とする業界関係者の見方を伝えました。機関の約半数がすでに決済でステーブルコインを使っているとされ、その上でAIエージェントが動く時代を見据えると、データ・利回り・会計といった目立たない基盤こそが必要になります。この週にこの層へ集まった資金は、ステーブルコインやAIエージェントの普及そのものより一歩手前で、それを支える基盤に先回りして投資する動きと読めます。

日本では取引所の再編が一段進む

この週は、日本の暗号資産市場でも大きな動きがありました。金融大手のSBI Holdingsが、暗号資産取引所のBitbankを$289M(約467億円)で買収すると6月25日に発表しました。SBIはBitbankを完全子会社にし、すでに運営するSBI VCトレードと合わせて、口座数は約292万、預かり資産は約1兆1000億円(約$6.8B)に達する見込みです。これにより、預かり資産の規模で国内首位の暗号資産事業者になり、国内の他の取引所を上回る水準になります。取引の完了は2026年10月ごろの予定で、公正取引委員会の承認が前提となります。

SBIが$289Mを払う相手は、必ずしも好調な事業とは限りません。M&A助言会社のArchitect PartnersはCoinDeskへのコメントで、この買収を「日本の暗号資産業界の統合(consolidation)を象徴する出来事」と整理しています。SBIが手にするのは、金融庁に登録された取引基盤と既存の顧客、そしてBitbankが積み上げてきたセキュリティや法令順守の体制です。規制対応を一から築くより、登録済みの事業者をまとめて取り込むほうが速い、という判断が読み取れます。日本では取引所の数が絞られ、金融大手の傘下で大型化が進んでいきます。エンタープライズの担当者にとっては、国内の取引相手やパートナーの顔ぶれが変わっていく動きとして見ておく価値があります。

AIの計算資源を取引する市場をつくる

最後に、この週の毛色の違う大型案件にも触れておきます。a16zの暗号資産部門が主導するSeedで$33Mを調達したOrnnです(Galaxy Digital・Nordstar・SV Angelらが参加)。Ornnは、AIの学習や推論に使うGPU(高速計算用の半導体)の計算資源を、石油や電力のような「商品」として売買・価格付けできるようにする金融インフラを開発しています。GPUの調達はいま、相手ごとに条件が違う不透明な契約に頼っていて価格が読みにくく、Ornnはここに取引所のような仕組みを持ち込もうとしています。

Ornnの中核は、実際に成立した取引をもとに算出するGPU計算資源の価格指数(OCPI)です。これはすでにBloomberg Terminal(金融機関が使う情報端末)で配信され、採用が始まっています。さらにIntercontinental Exchange(ICE、米国の大手取引所)が、このOCPIを参照する先物の清算を担う計画とされ、規制当局の承認を待っている段階です。背景には、計算資源の価格が大きく動く現実があります。Nvidiaの最新GPUのレンタル料は、2026年2月中旬から4月中旬にかけて48%上がったとされ、大規模なAIの学習を計画する企業にとって価格変動は無視できないリスクになっています。予測市場が「出来事の結果」を、Ornnが「計算資源」を、それぞれこれまで取引商品でなかったものを金融商品に変えようとしている点は、この週に共通する一つの方向性です。

ここから先に見ておきたい論点

6月22〜28日の週は、相場が下げるなかで、資金が予測市場とその周辺の「イベント取引」へ選んで向かいました。ここから先は、いくつかの分かれ道を見ておく価値があります。一つは、Kalshiの$40B評価が本当に成立するか、そしてそのときに、国と州の規制対立がどう決着するかです。評価額の伸びは取引量に支えられていますが、規制の不確実性はその前提を揺らしかねません。もう一つは、KalshiやPolymarket、Onyx Odds、Fomoが揃って向かう無期限先物の取り扱いが、実際にいつ始まり、どこまで利用者を集めるかです。「イベント取引」が一つの市場として定着するのか、それともいまの評価額が先走りなのかは、ここで見えてきます。そして機関向けのインフラでは、AIエージェントを見据えたデータ・基盤への投資が、実際に使われるサービスへ育つのか。日本では、SBIによるBitbank買収に続く再編が起きるのか。いずれも、この週の資金の流れが本物のトレンドだったかどうかを、次の週以降に確かめる手がかりになります。

この週の参照ページ

予測市場・イベント取引:

機関オンチェーン金融・AIエージェント基盤:

M&A・AIコンピュート:

あわせて確認したいページ

FAQで確認したい論点

比較検討や社内説明で出やすい疑問を、一次説明に戻れる形で確認できます。

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