はじめに
Solanaの処理性能は、実行速度だけでなく、バリデータ同士が世界中でどれだけ速く・確実にデータをやり取りできるかにも左右されます。DoubleZeroは、この「ネットワーク層」を専用の高性能回線に置き換えることを目指すインフラです。
DoubleZeroは2025年10月2日にmainnet-betaを開始し、Solanaバリデータ通信を最初の本番導入先としました。coindesk-launch
DoubleZeroが扱うのは、合意形成やブロック生成のロジックではなく、その下にある物理的な通信経路です。
Solanaのバリデータが担う仕事は、大きく4つの層に分かれます。合意形成、クライアントソフトウェア、ブロック生成・MEV(取引の並び順から生じる追加収益)、そしてネットワークです。このうち一番下のネットワーク層を、DoubleZeroが扱います。
合意形成層は、Alpenglowというアップグレードによって仕組みが刷新される予定です。詳しくはAlpenglowの記事で解説しています。
クライアント層とブロック生成・MEV層については、クライアントの違いとMEVの仕組みの記事でそれぞれ取り上げます。
接続ステークは、ローンチから9か月ほどで22%から59%まで伸びています。coindesk-launch solana-compass-q2
注: 本稿は2026年7月30日時点の公開情報を基にしています。DoubleZeroの接続ステーク比率や各種指標は変動するため、最新の状況はDoubleZero公式やSolana Compass等の一次情報でご確認ください。
DoubleZeroとは何か
DoubleZeroは、バリデータ間の通信を高速化するために設計された、分散型かつトークンインセンティブ型のネットワーク層です。公開インターネット経由の通信ではなく、専用の高性能ファイバー回線で通信します。
Solanaは取引の処理において高いスループットを持ちますが、世界中のバリデータ同士は公開ネットワーク経由で接続することが一般的で、ネットワーク状況に依存した遅延やパケットロス(送ったデータが届かず失われること)、輻輳(ネットワークの混雑)が生じます。
DoubleZeroは、独立したプロバイダーが提供するファイバー回線と相互接続するための拠点を組み合わせ、バリデータ間の接続経路をより決定論的(結果が安定して予測できること)にすることを狙います。
DoubleZeroは自らを「N1ネットワーク」、ブロックチェーンや分散システムに共通して使える中立な高速トランスポート層として位置づけています。現時点ではSolanaが唯一のメインネット導入チェーンですが、将来的には複数のL1/L2(レイヤー1・レイヤー2、Solana以外のブロックチェーン基盤)への対応を掲げています。datawallet
2025年3月には、DragonflyとMulticoin Capitalが主導したシリーズAで、評価額4億ドルのもと2,800万ドルを調達しています。coindesk-launch
Solana標準ネットワークとDoubleZeroの違い
現在のSolanaバリデータは、ブロックデータの伝播を担うTurbineと、クラスタ情報の共有を担うgossipプロトコルを使い、公開インターネット経由でバリデータ同士が通信しています。anza-turbine anza-gossip
Turbineは、リーダー(そのスロットでブロックを作る担当バリデータ)がブロックを断片(shred、ブロックデータを分割した単位)に分割して配布する仕組みです。配布はステーク量に応じた多段の中継ツリーで行われます。anza-turbine helius-turbine
中継はUDP(送達確認を省く軽量な通信方式)で行われます。経路(どの中継地点を経由するか)は、断片ごとに再計算され、ランダム化されます。anza-turbine helius-turbine
両者の違いは、次の3点です。anza-turbine helius-turbine helius-doublezero
- 伝送経路:標準は公開インターネット、DoubleZeroは独立系プロバイダーが持つ専用ファイバー
- 経路の決定性:標準は都度変わる非決定論的な経路、DoubleZeroは契約に基づく決定論的な経路
- 輻輳・パケットロスへの耐性:標準は輻輳・パケットロスが起こる前提で誤り訂正符号(Reed-Solomon)の冗長データを常に送り、その分帯域を消費する設計、DoubleZeroは専用帯域でそもそも輻輳を避ける設計
Turbineやgossipという伝播の仕組み自体は、DoubleZero導入後も変わりません。変わるのは、データが流れる物理的な経路だけです。
2層構造のネットワークアーキテクチャ
DoubleZeroのネットワークは、フィルタリングを担う外側のレイヤーと、データ伝送を担う内側のレイヤーという2層構造で作られます。datawallet
外側は、スパムの除去とパケットの検証を担う防御層です。専用ハードウェア(DoubleZero Device)が、FPGA(特定処理に特化した集積回路)を使って署名検証や重複排除を行います。処理は回線速度と同等の、遅延がほぼゼロで行われ、攻撃はネットワークの中核に届く前に遮断されます。datawallet
内側は、参加者同士を専用帯域で結ぶ最適化されたネットワークです。公開インターネットの輻輳から切り離されています。datawallet
DZX(DoubleZero Exchange、地域相互接続拠点)という主要都市に置かれ、独立系プロバイダーが持ち込む個別の回線を束ねた拠点を経由して、世界のデータセンターをまたぐメッシュ状のネットワークが構成され、上の2レイヤーが実装されています。datawallet kiln
回線を提供するのは、Jump Crypto、Galaxy、RockawayX、Jitoといった独立系インフラプロバイダーです。多くの場合、既存回線のこれまで収益化できなかった余剰キャパシティを活用しています。kiln coindesk-launch
各地のDZX(地域相互接続拠点)に置かれたハードウェアが攻撃を防止し、DZX同士を結ぶ専用帯域の回線が世界規模のネットワークを構成しています。
スマートコントラクトによる制御と接続方式
オンチェーンのコントラクトには、回線情報やSLA(サービス品質の保証水準)・稼働率、ルーティング要求といった検証済みの情報が保存されます。DoubleZeroは、「スマートコントラクトで定義されたネットワーク」として、この情報をネットワーク接続の経路確定と優先度付けの調整に使っています。
SolanaでのDoubleZeroの実装により、バリデータ間通信の高速化と、ピーク時における分散・信頼性の改善が見込まれます。
バリデータの参加は段階的で既存の公開インターネットへの接続を維持しつつ、DoubleZero経由の経路を選択でき、障害時には既存経路へフェイルオーバーする設計です。
参加するには バリデータのidentityアカウント(ノード間の通信に使う鍵に紐づくアカウント)に最低1 SOLを保有していれば手数料要件を満たします。datawallet
2Zトークンの役割
DoubleZeroのネイティブトークンである2Zは、mainnet-betaと同時にSPLトークン(Solana規格のトークン)として発行されました。総発行量は100億トークンです。bitget-2z datawallet
配分は次の8グループに分かれます。bitget-2z datawallet
- Foundation + Ecosystem: 29%
- Jump Crypto: 28%
- Malbec Labs: 14%
- Institutions: 12%
- Team: 10%
- Contributors: 4%
- Builders: 2%
- Validators: 1%
TGE(トークン発行時点)の完全希薄化評価額(FDV)は8億ドル、初期時価総額は2億7,760万ドル(初期流通比率34.7%)でした。bitget-2z
2Zの用途は、回線・帯域を提供するコントリビューターへのネットワーク報酬です。ネットワークへの接続料金も含まれ、対象はバリデータや、利用者からの問い合わせに応答するRPCオペレーターです。ステーキング担保やガバナンスも用途に挙げられています。 bitget-2z
現在のネットワーク状況(2026年第2四半期時点)
Solana Compass(Solanaエコシステムの分析ダッシュボードを提供する事業者)が2026年7月3日に公表したデータによると、DoubleZeroのTotal Connected Value(TCV、接続された資産価値の合計)は217億ドルです。第1四半期の180億ドルから20.6%増加しました。solana-compass-q2
接続バリデータ数は462、うち断片を配信する側として活動しているのは434です。Solanaメインネットのステーク加重に占める割合は59%に達し、第1四半期の46.2%から12.8ポイント上昇しました。solana-compass-q2
2025年10月のローンチ時点では22%でした。coindesk-launch
集約スループットは10.14Tbpsで、第1四半期の9.52Tbpsから増加しています。専用リンク数は166本で、第1四半期の159本から7本増えました。新拠点は北米4都市(ピッツバーグ、ニューヨーク、シカゴ、ワシントンDC)、欧州3都市(フランクフルト、ミュンヘン、アムステルダム)、そして東京です。solana-compass-q2
新拠点は北米・欧州・アジアの3地域にまたがり、DoubleZeroの物理網は地理的な広がりを続けています。
Solanaエコシステムへの影響
DoubleZeroがSolana上で訴求するのは「より安定した性能」で、その柱はバリデータ間通信の安定性を高めることです。TPS(1秒あたりの取引処理数)の引き上げが主眼ではありません。kiln
輻輳時のジッター(レイテンシのばらつき)が減ることで、ネットワーク全体のストレス耐性が上がります。外側のリングと同じ仕組みで働くエッジフィルタリング(スパムの除去と重複排除)は、輻輳の軽減とDDoS(大量アクセスによる妨害)耐性の向上にもつながります。kiln
バリデータ
最も直接的に恩恵を受けるのはバリデータです。専用回線による決定論的(結果が安定して予測できる)なルーティングは、パケットロスの減少と断片伝播速度の向上につながります。DoubleZeroに接続したバリデータはスキップスロット(担当スロットでブロックが生成されず飛ばされること)の減少と投票レイテンシの低下を確認しています。
RPCオペレーター(利用者からの問い合わせに応答するノードの運用者)にとっても、チェーンの最新状態へのアクセスが速くなる利点があります。kiln
バリデータとRPCオペレーターは、DoubleZeroに直接接続する分、恩恵も直接的です。ステーカーとDeFiユーザーへの恩恵は、ここから間接的に届きます。
ステーカー
参加バリデータのスキップスロットが減れば、より安定したネットワークと利回りの改善が期待できます。kiln
ステーカーはDoubleZeroに直接接続しません。恩恵は、委任先バリデータの安定性を通じて間接的に届きます。
DeFiユーザー
searcher(取引機会を探して送る参加者)やbuilder(取引をまとめてブロックを組み立てる参加者)も、レイテンシ低下から恩恵を受ける立場です。両者は、バンドル(複数の取引をまとめた束)をより速く組めるようになります。
これはMEV報酬(取引の並び順から生じる追加収益)の効率化にも寄与しうるとみられています。kiln
断片伝播の改善とブロック生成の安定化は、取引が承認されるまでの体感を安定させます。マーケットメーカーの効率化によってスプレッドが締まり、価格の精度が上がる可能性も指摘されています。kiln
DeFiユーザーへの効果は間接的ですが、バンドル構築の高速化とスプレッド縮小という2つの経路で及びます。
リスクと留意点
TPSが高いような高性能なチェーンにとって、障害の影響が大きいネットワークレイヤーに踏み込んでいる点で、DoubleZeroは野心的なプロジェクトです。
第一に挙げられるのが、物理インフラの集中リスクです。複数の独立系プロバイダーが参加していても、DZX(地域相互接続拠点)や回線は同じデータセンターや地理的地点に集中しやすく、主要拠点で障害が起きれば連鎖する可能性があります。
第二に、新たな攻撃対象や設定ミスのリスクも生じます。追加のルーティング機能によって、新しい設定の複雑さと新しい障害モード(誤ったルート、機器の不具合)です。
今後の展望
今後DoubleZeroが掲げる方向性は、主に次の3つです。
- バリデータ通信の高速化にとどまらない、よりプログラマブルなルーティング・サービス定義への拡張
- 拠点・回線・オペレーターの追加による物理的な広がりの拡大と、集中リスクの低減
- 他の高性能L1/L2(レイヤー1・レイヤー2)エコシステムへの展開
拠点・回線の追加は、前節で触れた地理的集中リスクを和らげる方向にも働きます。
まとめ
DoubleZeroは、Solanaバリデータの通信を公開インターネットから専用ファイバー網へ移すことで、遅延とパケットロスを減らすインフラです。
2025年10月のmainnet-beta開始から2026年第2四半期までに、接続ステークは22%から59%へ拡大しました。solana-compass-q2 coindesk-launch
恩恵が最も直接的に及ぶのはバリデータですが、スキップスロットの減少や断片伝播の改善は、ステーカーやDeFiユーザーにも間接的に波及します。一方で、接続性が高まるほど、物理インフラの地理的集中や新たな攻撃対象も増え、分散性とのトレードオフは大きくなります。
拠点や回線の追加が、この地理的集中を今後どこまで和らげるかは、まだ見通せていません。Omakaseは、ステーキングの運用代行事業者(SSP)として、DoubleZeroの普及状況を確認しています。
参考リンク
本稿は、以下の参考資料を基に作成しています(参照日:2026年7月30日)。
- Kiln「DoubleZero on Solana: a dive into the internet layer for validators」kiln
- Solana Compass「DoubleZero posts $21.7B Total Connected Value and 59% Solana mainnet stake weight in Q2 2026」solana-compass-q2
- CoinDesk「DoubleZero Mainnet Goes Live With 22% of Staked SOL on Board」coindesk-launch
- Datawallet「DoubleZero Explained: Architecture, Use Cases & 2Z Token」datawallet
- Bitget Academy「What is DoubleZero (2Z)?」bitget-2z
- Helius「Turbine: Block Propagation on Solana」helius-turbine
- Anza「Turbine Block Propagation」anza-turbine
- Anza「Gossip Service in a Solana Validator」anza-gossip
- Helius「DoubleZero: A Faster Internet」helius-doublezero