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Research & InsightsPublished 2026-09-20Updated 2026-09-24

【暗号資産業界週次振り返りと考察】9/14-9/20|S&P GlobalはKaikoに出資、3日後にOpenZeppelinを買収

9月14日から20日の週、S&P Globalは投資部門のS&P Global Venturesを通じて暗号資産データ基盤Kaikoへ戦略出資しました。Series Bの累計額は$110Mに拡大しています。

その3日後の9月17日には、格付け部門のS&P Global Ratingsが、スマートコントラクトのセキュリティ標準を担うOpenZeppelinの買収契約を発表しました。3日前に投資部門が出資したKaikoはデータを、格付け部門が買収したOpenZeppelinはコードを扱う会社です。

CryptoSlateは、この2件を、データ・ベンチマーク・セキュリティを一体で担う単一のリスク管理基盤づくりの一環と見ています。ただし同メディア自身、この戦略はトークン化金融の実需が広がることを前提にした先行投資だとも述べました。

一方でAMBCryptoは、監査人と格付け機関を同時に持つ体制に、2008年の金融危機を招いた「イシュアーペイ」(格付け機関が発行体から報酬を得る仕組み)型の利益相反構造を指摘しています。この二段構えは、手放しでは評価できません。

S&P Global、Kaikoへの出資から3日でOpenZeppelinを買収

S&P Globalは、投資部門によるKaikoへの出資と、格付け部門によるOpenZeppelinの買収を、3日のうちに続けて発表しました。

S&P Globalが9月14日に投資部門S&P Global Venturesを通じてデータ基盤Kaikoへ戦略出資し、3日後の9月17日に格付け部門S&P Global Ratingsがコードのセキュリティ標準を担うOpenZeppelinの買収契約を発表したという時系列を示す図

Kaikoへの戦略出資でSeries Bを$110Mに拡大

Kaikoは2014年にパリで創業した、暗号資産・デジタル資産向けの市場データ基盤です。150超の取引所やブロックチェーンプロトコルから取引データを集め、250超の金融機関に価格やベンチマーク、市場監視の情報として提供しています。

今回主導したのはS&P Global Ratingsではなく、投資部門のS&P Global Venturesです。この部門の違いが、3日後のOpenZeppelin買収を見るときの手がかりになります。

S&P Globalのデジタル資産への関与は、今回が最初ではありません。S&P Global Ratingsは2022年にDeFiプロトコルCompound Treasuryを格付けし、2023年にはステーブルコインの安定性評価(SSA)を手掛けました。2025年にはDeFiプラットフォームSky Protocolも格付けしています。

取引が24時間365日続く市場では、価格データとスマートコントラクトの両方を常に点検できる体制が求められます。4年以上続いてきた一連の取り組みも、その体制づくりの一部とみられます。

Kaikoとの間には、それ以前からの積み重ねもあります。S&P Dow Jones IndicesとKaikoは2026年3月に米国債指数iBoxxのトークン化で協業し、9月1日には共同ブランドの指数群「S&P Kaiko Digital Asset Indices」を発表したばかりでした。データ提供という商業契約を、資本関係へ一段深める動きといえます。

Kaiko自身も、S&P出資を受ける前から市場データ業界の統合を進めていました。2026年5月にオンチェーンデータ基盤Cometh、2週間後の6月にはデジタル資産データ企業Amberdataを買収しています。

今回のSeries B拡大には、新規に$57Mが加わりました。BNP Paribas、Nasdaq Ventures、Coinbase Venturesなどが参加しています。調達資金は、トークン化された国債やMMF(マネー・マーケット・ファンド)など、24時間取引されるオンチェーン資産向けのデータインフラ拡張に充てるとしています。

3日後、コードの格付けを担うOpenZeppelinを買収

OpenZeppelinは2015年創業、スマートコントラクトのセキュリティ標準を担ってきた企業です。監査済みの再利用可能なコードを提供するContractsライブラリは、累計$37Tの価値移転を支えているといいます。

監査実績は累計900件超で、本番稼働前に1万件超の脆弱性を見つけてきたとOpenZeppelinは説明しています。対応チェーンはEthereum系に加え、Starknet・Suiなど非EVM系にも及びます。

S&P Global Ratingsは9月17日、このOpenZeppelin買収契約を発表しました。買収額は非公開です。

PresidentのYann Le Pallec氏は「オンチェーンへ移行する市場に、信頼できるデータとベンチマーク、透明性あるリスク評価をもたらす」と説明しました。CryptoSlateは、Kaikoへの出資からわずか3日でRatings部門が動いたこの流れを、単発の投資判断ではなく体系的な取り組みだと見ています。

OpenZeppelinとS&P Globalは、既存のContractsライブラリを無償・公開のままGitHubで維持すると強調しています。監査チームやブランドも変更しない方針です。

それでもAMBCryptoは、監査人と格付け機関を同社が同時に持つ体制そのものに、利益相反のリスクが残ると指摘しています。その根拠として、格付け機関が発行体から報酬を得る仕組みが2008年の金融危機を防げなかった点を挙げています。VanEckのデジタル資産責任者Matthew Sigel氏も、Kaiko出資とOpenZeppelin買収を「aggressive」な動きだと評しました。

S&P Globalは2025年11月、ステーブルコインUSDTを「weak」に格下げし、Tether CEOのポール・アルディーノ氏の反発を招いた経緯があります。OpenZeppelin買収がいつ完了するか、監査チームの独立性を保つ具体的な措置が示されるかどうかは、一定の蓋然性で、この二段構えへの評価を左右する材料になります。

ステーブルコイン決済インフラに、銀行とカードネットワークの資金が集中

この週はステーブルコイン決済インフラにも資金が集まりましたが、その背景は一つではありません。VisaはCircle・Rippleと共に、企業向け決済基盤Velocityへ$10Mを追加出資しました。Fin.comは買収を重ねるための$20Mを、香港のFinloopはHSBCの戦略出資を含む$10M超を、それぞれ調達しています。

3社に共通するのは、同じ週に資金が集まったという点だけです。出資した側も資金の使い道も、3社でそれぞれ異なります。

同じ週にステーブルコイン決済インフラで資金調達したVelocity($10M追加、MastercardのBVNK買収でパートナーを失った代替探し)、Fin.com($20M、買収ロールアップの資金)、Finloop($10M超、HKMAライセンスを持つHSBCの出資)の3社を並べ、決め手がそれぞれ異なることを示す比較図

VisaはCircle・Rippleと共にVelocityへ追加出資、MastercardのBVNK買収で失った提携先の後任に

Velocityは、企業や決済会社がステーブルコインで資金を管理・移動するための裏方インフラです。Visa Ventures・Circle Ventures・Rippleらから$10Mを追加調達しました。

Series Aの累計は$48M、評価額は$200Mになりました。

この出資のきっかけは、Mastercardが2026年3月に発表し8月に完了させた、ステーブルコイン決済基盤BVNKの$1.8B買収です。VisaはBVNKの出資者であり提携先でもあったため、この買収でパートナーを失いました。

買収完了の約2週間後にVisaは新たな決済パートナーを探すRFP(提案依頼)を出しています。そのおよそ4週間後にVelocityへの出資を発表しました。

もっとも、この一件をBVNKを失った分を補うためだけの動きと見るのは早計です。この週が終わった2日後に公開された分析は、Visaがマルチチェーンに対応する決済基盤とAIエージェント向けの本人確認機能をすでに社内で持っていた点を指摘しました。Velocityへの出資は、Visa自身が元から進めていた戦略の延長という見方も成り立ちます。

カードネットワーク各社は、独立系のステーブルコイン決済企業を買収で取り込む動きを続けています。Visaには、残る独立系の相手が他社に渡る前に先に動いた面もあります。

ただ、企業のトレジャリー(資金管理)部門が既存の資金管理システムを解体せずにステーブルコインを取り込めるかは、業界共通の課題です。法定通貨に戻す経路(オフランプ)の不足や、会計システムとの連携の複雑さも指摘されています。

Fin.comは買収ロールアップで$20M、ステルスを終えて実態を公表

Fin.comは、コルレス銀行網を経由する従来の国際送金に、ステーブルコイン決済を組み合わせた決済インフラです。単一のAPIで送受金や多通貨口座、コンプライアンス機能をまとめて提供し、対応は51か国に及びます。

Expa(Uber共同創業者Garrett Camp主導)のSeedラウンドで$20Mを調達し、それまでのステルスモードを終えて実態を初めて公にしました。

Fin.comは直近12か月で7件の買収を完了し、年内に12件へ積み増す計画です。主導したExpaのパートナーVitor Lourenço氏は、この手法を、買収を重ねて事業を拡大するイタリア企業Bending Spoonsに例えています。

Fin.com自身は、規制との関係には触れていません。2025年に成立したGENIUS Actを受けたFinCEN・OFACのAML(資金洗浄対策)・制裁規則はまだ案の段階で、GENIUS Actの施行も2027年1月の予定です。規則の方向性が見え始めたことが買収戦略を後押しした可能性はありますが、規制が確定した後の動きではありません。

創業者は自社発表で、直近1年でARR(年間経常収益)が50倍に伸び、パートナー企業経由で8億2500万人に使われていると説明しています。ただしFortuneの取材でも、この数字を裏づける顧客企業名は明らかにされておらず、規模感は自己申告の範囲にとどまります。

香港のFinloopはHSBCの戦略出資で$10M超、4日後にAberdeenとも提携

Finloopは、香港拠点のウェルステック企業です。証券会社や資産運用会社向けに、現金管理から仕組商品、RWA(現実資産のトークン化)までを一括で扱う基盤を提供しています。

HSBCとPeople’s Capitalの戦略出資を含むSeries A+ラウンドで、$10M超を調達しました。

HSBCの出資の背景にあるのは、香港金融管理局(HKMA)が2026年4月に交付したステーブルコイン発行者ライセンスです。同ライセンスを持つ数少ない銀行の一つであるHSBCが、地場のWeb3ウェルステック企業に直接出資したことになります。

HSBCの出資セレモニーから4日後の9月7日には、大手資産運用会社Aberdeen Investmentsとのトークン化プライベートマーケット販売提携も発表しています。HKMAのライセンスを持つHSBCとの資本関係が先に固まり、商業上の提携はその後に続いた順番です。

一方で、RWAには流動性・カストディ・法的分類といった実務上の課題が残ります。セカンダリー市場の薄さやトークンの法的性質判断の不確実性は、免許上の優位だけでは解消されません。

上院が同じ週にCLARITY法案(暗号資産市場構造法案)のクロージャー投票を否決したことで、この法案による市場構造の明確化は当面止まりました。残る選択肢は、通貨監督庁(OCC)が11月に出すGENIUS Act最終規則だけです。OCCは、この規則を11月中に確定する方針です。

また、Visaのように競合への対応で出資する動きが続くかどうかは、Mastercard以外のカードネットワークも新たな提携先を必要とするかに左右されます。

トークン化証券は既存勢力が先回り、私募クレジットは人脈で新規参入

上院は9月15日、CLARITY法案の本会議審議入りに必要な60票を確保できず、クロージャー投票を49対50で否決しました。否決の理由は公職者の暗号資産保有に関する倫理条項で、SEC・CFTC(証券取引委員会・商品先物取引委員会)の権限分担の枠組み自体への異論ではありません。

トークン化証券の分野でこの週に動いたのは、すでに免許や買収資金を持っていた既存の事業者でした。

トークン化証券ではICEとBullish Capitalが免許・買収で先回りしました。私募クレジットのTareだけは事情が別で、新規参入の主な決め手は創業者の人脈でした。

ICEはtZEROを「2番目」のトランスファーエージェントに指名

tZEROは2014年、Overstock.com社内のプロジェクトとして生まれた、証券トークン化インフラの老舗です。米金融当局の認可を受けたブローカーディーラーとATS(代替取引システム)を運営し、証券トークンの発行・売買からカストディ・清算までを規制の枠内で担っています。

既存投資家のMarc・Max Cohodes主導の戦略ラウンドで資金を調達しました。金額は非公開です。

ICEはこのラウンドに、tZEROの103件のブロックチェーン特許ポートフォリオのライセンス取得と合わせて参加しています。背景には、2026年8月31日に発表されたICEとtZEROの提携があります。

ICEが計画するNYSE系のトークン化証券基盤で、tZEROは証券の名義書換を担うデジタル・トランスファーエージェント機能の設計パートナーを務めることになりました。ICEにとっての主な価値は、tZEROが既に持つ規制対応済みのブローカーディーラー・ATS免許にあります。

ICEが2番目のデジタル・トランスファーエージェントという位置にしたのは、単一ベンダーに頼らないための保険です。免許の価値そのものが下がったわけではありません。

既存のトランスファーエージェント大手(DTCC・BNY・Computershareなど)は、2026年7月時点で既に、発行体の承認を得ない第三者発行のトークン化株式が市場の整合性を損なうとしてSECにロビー活動を展開していました。立法での解決を待たずに、免許を持つ側が先に規制対応済みの基盤を広げたことになります。

私募クレジットのTareは、創業者の人脈で$13.25Mを調達

Tareは、ローン組成からサービシング、証券化までを単一の台帳で扱う、Avalanche上のオンチェーン私募クレジット基盤です。私募クレジットは、銀行を介さず機関投資家が企業や個人に直接融資する市場で、近年急拡大してきました。

Blockchain Capital主導のSeedラウンドで$13.25Mを調達しました。Janus Henderson InvestorsやAvalanche Foundationなどが参加しています。

tZERO・Deadstockが既存の免許や買収で先回りしたのに対し、Tareの場合、調達の主な決め手は人脈でした。共同創業者のLucas Vogelsang氏は、RWAの先駆けCentrifugeを共同創業した人物です。

Centrifugeを離れた後は、リード投資家Blockchain Capitalでベンチャーパートナーを務めていました。共同創業者がリード投資家の元内部関係者だったという関係が、このラウンドを成立させた主な要因です。

トークン化された私募クレジットは、RWAの中でも拡大が目立つ分野です。Vogelsang氏は、自ら共同創業したCentrifugeと同じ分野に、後発の事業者として参入したことになります。

Tareは自社発表で、累計調達実績$1B超のoriginator(ローンの組成者)を受け入れている最中だと説明しています。ただし、これは自社発信の数字にとどまります。

既存勢力の先回りは、実物コレクタブルのトークン化でも見られました。PSA鑑定済みのポケモンカードなど実物資産をトークン化するDeadstockが、Bullish Capital主導のSeedラウンドで$2.5Mを調達しています。Bullish Capitalは、NYSE上場の暗号資産取引所Bullish(BLSH)のベンチャー部門です(同名の米消費財ブランド投資会社とは別法人)。

Bullish本体は2026年5月、証券代行大手Equinitiを$4.2Bで買収すると発表しています。Deadstockへの出資も、自社のトークン化証券基盤を広げる同じ流れの中にある動きです。

CLARITY法案が今会期中に再提出されるかどうかで、tZEROやDeadstockのような既存勢力の先回りが今後も続くかが左右されます。一方でTareのような人脈による新規参入が業界全体でどれだけ広がるかは、個々の創業者のネットワークに依存するため、不透明な要素として残ります。

取引所は淘汰、DeFiは侵害が連続

この週は、中堅取引所の淘汰とDeFi・ウォレット層の侵害が同時に進みました。ただし、二つの原因は別です。

CoinExが事業を終える理由はコンプライアンス面の負担で、rsETH SafeやNostra Financeの被害はそれぞれ別の技術的な弱点を悪用されたものです。

CoinExが9年の歴史に幕、中堅取引所の淘汰が続く

中堅取引所CoinExは9月15日、9年間の運営を経て事業終了を発表しました。取引は9月29日まで、引き出しは12月22日まで受け付けます。

CoinEx創業者自身は、コンプライアンスリスクを抑えきれなくなったことを理由に挙げています。Binance創業者のCZ氏も、この整理をユーザー資産保護の観点から評価しました。

同じ時期には、BitMEXやBitMartといった中堅取引所も相次いで撤退しています。

この淘汰の主な理由は、資金調達や技術基盤の問題ではなく、コンプライアンス対応コストの上昇です。取引所という事業モデルそのものが抱える運営コストの問題といえます。

Harukoへの侵害とDeFiでの連続侵害、週間流出額は約$20M

機関投資家向けポートフォリオ管理基盤のHarukoは9月18日、盗まれたアクセストークンを通じたサイバー攻撃を受けました。顧客15社の取引所API情報や取引データ、一部資金が流出しています。

同じ週には、rsETH Safeのモジュール濫用による$7.8Mの流出(9/15)もありました。Starknet上のNostra Financeでは、オラクル(外部の価格情報をブロックチェーン上に反映する仕組み)を操作され、$3.5Mが流出しています(9/17)。

DCENTのモバイルウォレット署名の脆弱性による約$6.57Mの流出も9/16に確認されました。Fetch.ai系ブリッジでも署名鍵侵害により$16.77M相当が対象になりましたが、大半は未発行分でした(9/19-20)。Crypto Timesの集計では、これらに小規模な侵害を含めた週間の確認済み流出額は約$20Mとされています。

これらはいずれも、原因の異なる技術的な脆弱性です。S&P GlobalがOpenZeppelin買収で掲げ直した「セキュリティの標準」も、コード監査という一つの取り組みにすぎず、こうした個別のインフラ選択や実装の不備までは防げません。この週のDeFi・ウォレット侵害は、その限界を示しています。

取引所側のコンプライアンス費用と、DeFi側の監査・インフラコストは、どちらも下がる見通しが立っていません。この週に淘汰と侵害が重なったのは偶然ではなく、共通のコスト構造の表れです。

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