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リサーチ・技術解説公開 2026-06-21更新 2026-06-25

Web3資金調達ウィークリー(6/15-6/21)|Ripple出資でFlutterwaveが$3.2B評価、Trace Financeが$32M、BlockworksがMessariを買収

6月15〜21日の週のWeb3資金調達は、投資家がリスクを避ける局面のなかで進みました。米国の中央銀行にあたる米連邦準備制度は6月17日の会合で利下げを見送り、ビットコインは月間で2割近く下げ、その現物ETF(株式のように売買できる上場投資信託)からは過去最大級の資金が流出しました。値動きで稼ぐ投機的な資金が細るなかで、出資が向かった先は規制に対応したインフラでした。相場を当てにする対象ではありません。保険料や決済手数料、準備金(発行体が価値の裏付けとして持つ資産)の利回りなど、実際の収益を生む領域です。

その中心が、新興国の決済に使われるステーブルコイン(価格を米ドルなどに固定した暗号資産)をめぐる動きです。ただし資金が多く集まったのは、ドルを「送る」ウォレットそのものより、その送金を各国の規制に沿って成立させ、送ったあとの資金を管理する銀行・コンプライアンスの側でした。アフリカの決済大手FlutterwaveはRippleの戦略出資で評価額$3.2Bに達し、ブラジルのTrace FinanceはCoinFund主導で$32Mを集めています。

ステーブルコイン決済が新興国の実需を取り込む

現地通貨が目減りしやすい新興国では、ドルに連動するステーブルコインを送金や決済に使う動きが、消費者と企業の双方に実際の需要として根づいてきました。CoinDeskはこの越境決済を、いま暗号資産でもっとも急成長している用途の一つと位置づけています。この週はその需要に、アフリカの決済インフラを広く束ねるFlutterwaveが大きく踏み込みました。

アフリカ決済大手Flutterwave、Rippleと組みドル建て送金へ

Flutterwaveは、カード払いや銀行振込、モバイルマネー、各国独自の決済手段を一つのAPI(外部サービスがつなぎ込むための接続口)でまとめて扱えるようにするフィンテック企業です。アフリカ35カ国で、累計10億件超・総額$50B超の取引を処理してきました。同社はRippleから戦略出資を受け、Series E後の評価額は$3.2B(一部報道では$3.3B)に達しています。

Rippleの出資額は非公開ですが、この出資には提携が伴います。ドルに連動するステーブルコインRLUSDを、送金アプリ「Send App」の送金経路に主要な決済通貨として組み込みます。送金の最終決済は、XRP Ledger(Rippleが使うブロックチェーン)で処理します。展開はまずナイジェリアから始まります。

ここで目を引くのは、提携の主役がRippleの価格が変動する通貨XRPではなく、ドルに連動するRLUSDだという点です。U.Todayは、その理由を、企業が利益率を一定に保つには為替の動きが読めることが要るからだと分析しています。価格が動くXRPは規制と変動のリスクを抱える一方、価格が安定したRLUSDならその読みやすさを提供できる、というわけです。Rippleにとっては、銀行や加盟店、モバイルマネーとすでにつながっているFlutterwaveのネットワークでRLUSDを使ってもらうこと自体が狙いといえます。ナイジェリアではステーブルコイン取引の約9割をテザーのUSDT(最大手のドル連動ステーブルコイン)が占めており、今回の出資は、そのほぼ独占状態に米ドル系の対抗軸を持ち込む動きでもあります。

中南米El Dorado、新チェーンで法人のドル決済を立ち上げ

ラテンアメリカでも同じ需要が立ち上がっています。現地通貨が不安定な環境で、ドル建ての価値を保ったまま個人どうしで送金できるウォレットのEl Doradoは、Paradigm主導のSeries Aで$9Mを調達しました(Coinbase Ventures、Verda Venturesが参加、累計$12M)。同社はParadigmとStripeが開発した決済向けブロックチェーンTempo上で法人向けの決済を立ち上げ、すでに100社超が利用しています。主な用途は、中国からのEV輸入にともなう貿易の支払いだと説明しています。Flutterwaveが大手として既存の決済ネットワークにドル系ステーブルコインを組み込むのに対し、El Doradoは地域に特化したスタートアップが、新しいブロックチェーン上に法人決済を一から築いています。同じ新興国の決済でも、大手が既存網に組み込む型と、新興企業が一から作る型という二つのやり方が、同じ週に並びました。

ステーブルコイン送金を支える、規制対応の銀行・コンプライアンス層

この週の資金は、送金そのものよりも、その送金を規制に沿って成立させ、送ったあとの資金を管理する側に多く向かいました。

銀行とステーブルコインをつなぐ「翻訳レイヤー」に資金集中

最大の案件はブラジルのTrace Financeで、CoinFund主導のSeries Aで$32Mを調達しています。Coinbase Ventures、Jump Crypto、Paxos、Chainlink Labsなどが参加し、評価額は2022年のシード期から約10倍に拡大しました。

Trace Financeは、ブラジルの即時送金網PIX(国が整えた、銀行口座どうしを24時間すぐに結ぶ送金の仕組み)などの現地決済を受け取ってステーブルコインに換え、国際決済へ回す処理を、企業が自社サービスに組み込めるようにする規制対応のインフラです。同社は自らを「旧来の銀行とステーブルコイン決済をつなぐ翻訳レイヤー」と位置づけています。The Blockはこの調達を、Stripeによる$1.1BのBridge買収、Mastercardによる最大$1.8BのBVNK買収と同じ流れに置き、ステーブルコインと伝統的な銀行・決済をつなぐインフラへの需要が広がっている一例と整理しています。この$32Mも、その大きな流れの新興国側の一例といえます。

背景にはブラジルの規制変更がありますが、その中身は一筋縄ではいきません。同国は、外貨に連動するステーブルコインの国境をまたぐ取引を「外国為替取引」と分類しました(Resolution 521)。$100,000を超える取引には、認可を受けた機関の関与を求めています。これは、銀行並みのライセンスと設備を持つTrace Financeのような事業者には有利に働きます。一方で中央銀行は別の規則(Resolution 561)で、越境決済の事業者がステーブルコインを裏側の決済手段として使うこと自体を制限しました。CoinDeskはこれを、暗号資産が市場に存在することは認めるが、決済インフラとして使うことは許さない線引きだと報じています。つまり規制は、ステーブルコインを仕組みの中核に置く非銀行系の業者には不利となり、銀行とのつながりを持つ側に資金と取引を寄せます。この差が、Trace Financeに資金が集まった理由の中心にあります。

送金後の残高統合と制裁確認を担う基盤にも投資マネー

送ったあとの資金を管理する側にも投資が向かいました。Rangeは、企業がステーブルコインと法定通貨(国が発行する通常のお金)をまたいで、資金の記録・リスク・コンプライアンスを扱う基盤を手がけています。TX VenturesやMaven 11 Capitalが参加したSeries Aで$8.3Mを集めました(募集枠を上回る応募で締め切り、累計$11M)。提供するのは二つです。一つは「記録の基盤」です。銀行口座・資産の保管業者・ウォレット・取引所にある残高を、一つの帳簿にまとめます。もう一つは、送金を実行する前に制裁対象・不正・規制違反がないかを確認する管理の仕組みです。顧客にはCircleやソラナ財団、Stellarを挙げています。

この管理の難しさは、発行体の側からも語られています。Paxosは、ステーブルコイン決済を六つの層に分けたうえで、最も難しいのは層と層をつなぐ部分、つまり取引監視・制裁確認・決済照合だと説明しています。Rangeに伝統的なフィンテック系と暗号資産に強いファンドの両方が参加したことは、こうした目立たない管理の仕組みが投資の対象として意識され始めたことを表しています。

ステーブルコイン決済の2層構造を示す図。上段はドルを送る消費者向けウォレット層でFlutterwave(Ripple戦略出資・評価額$3.2B)とEl Dorado($9M)。下段は規制対応の銀行・コンプライアンス層で、現地決済をステーブルコインに変換する翻訳レイヤーのTrace Finance($32M)と、送ったあとの残高を統合・確認するRange($8.3M)。矢印が上段の送金から下段の規制対応・資金管理へ向かい、この週の投資が下段に多く向かったことを示す。

a16zは慎重、個人の越境送金はむしろ減少

ただし、この「資金が銀行・コンプライアンス側に向かう動き」には但し書きが要ります。a16zは、ステーブルコインの利用はむしろ同じ国・地域の中や個人レベルへ広がっていて、国境をまたぐ送金の比率はむしろ下がっていると指摘しています。この週に銀行・コンプライアンス側へ集まった資金の多くは、発行体や企業、機関投資家の側で起きた動きです。新興国の個人送金そのものが、ウォレットから規制された銀行へ移ったと結論づけるのは早計でしょう。それでも、制度や機関のお金が規制対応の土台に向かう流れは、いくつもの場面で同時に見られました。たとえば運用大手のState Streetは、米国でステーブルコインの発行と準備金の保有を定めるGENIUS法に対応した、発行体向けの準備金ファンドを同じ時期に立ち上げています。

暗号データ市場の再編と、企業価値の調整

資金調達と並んで、暗号資産のデータ業界では事業の統合が相次ぎました。この週はBlockworksが同業のMessariを買収しています。Messariは、4万を超える暗号資産の価格やリサーチ、トークンのアンロック(発行体などが保有するトークンが、時間をかけて市場に放出されていく予定)や調達動向をデータとして提供してきた企業です。買収額は公式には非公開ですが、報道では$10M強と伝えられています。

この数字には、業界の大きな変化がそのまま表れています。Messariは2022年のSeries Bで$35Mを調達した際、評価額が約$300Mとされていました。報道ベースの買収額はそこから約97%下がった水準で、Bitcoin Magazineはこれを「96.7%のマークダウン(評価額の大幅な引き下げ)」と表現しています。2021〜22年の成長期待でついた高い評価が、その後の事業の実態に合わせて下方修正された格好です。M&A助言会社のArchitect PartnersはThe Defiantへのコメントで、暗号データ業界がいま「持つ者と持たざる者」に選別される局面にあると述べ、市場の圧力が今後も不振企業の売却を迫ると見ています。

これは一社だけの事情ではありません。今月は2日にもKaikoが同業のAmberdataを買収しており、データ事業の統合は単発ではなく続けて起きています。買い手のBlockworksは、トークンの発行体が供給量や配分、事業状況を決まった形式で開示する枠組みを軸にしてきた企業です。発行体側の開示情報と、投資家側の市場データを一つのサービスにまとめ、伝統的な金融におけるBloombergやS&P Globalのような、暗号資産データの定番基盤になることを狙っています。発行体が増えるほどデータの価値が高まるネットワーク効果を参入障壁とみなし、勝者がほぼ独占するという見方がある一方で、crypto.newsは、AIによってデータが誰でも安く手に入る汎用品になり、価格が崩れる懸念も伝えています。これに対しBlockworks側は、AIはむしろ整理された暗号データの需要を増やすと反論しています。不振企業の淘汰が進むのか、それともデータが汎用品になって価格が下がるのか。「暗号資産版のBloomberg」を狙う競争は、この二つの可能性の間にあります。

実世界のリスクと資産を、オンチェーンの利回りに変える

暗号資産の値動きとは連動しにくい、現実世界の収益を裏付けにした利回りを、ブロックチェーン上(オンチェーン)で作る試みにも資金が入りました。

相場でなく保険料を元手にした利回りに、Coinbaseが出資

オンチェーンの再保険(保険会社が引き受けたリスクを、さらに別の保険会社に引き取ってもらう仕組み)を手がけるReは、Coinbase Venturesから戦略的投資を受けています(金額非公開)。

利用者は、Coinbaseが運営するレイヤー2(基盤チェーンの外で取引をまとめて処理し、手数料を下げる仕組み)のBase上でUSDC(米ドルに連動するステーブルコイン)を預け、reUSDなどのトークンを受け取ります。預けた資金は、規制対象の再保険契約の裏付けに充てられます。特徴は、利回りの元手が、借入やトークンの新規発行ではなく、保険料収入である点です。暗号資産や株式の相場と連動しにくい利回りを求める投資家に向けた設計といえます。

ただし数字には注意が要ります。Reは累計で約5億ドルの保険料を引き受けてきたと説明しますが、これは自社の開示にもとづく数字です。別の保険専門メディアが報じた2026年の契約更新シーズン向けの引き受け可能枠(約1.34億ドル)とは指標が異なり、第三者による検証情報は限られます。預けた資金がBase上で運用される設計と、Coinbase Venturesの出資が重なることからは、同社がBaseを、現実資産や利回り商品の拠点に育てる狙いが読み取れます。実際、同じ週にはBaseのエコシステム向け基金が、別のRWA(現実資産をトークン化する)プロトコルにも出資しています。

同じく現実の資産をブロックチェーンに持ち込む動きとして、ニューヨークの保管庫にある金・銀を裏付けにトークン化する独自チェーン(レイヤー1)のStratoが、一般向けの販売で$1.7Mを調達しています(出資者の詳細は限られます)。

EarnOS、「実在する人間の行動」だけに広告課金

この週の資金は、決済やRWAだけに向かったわけではありません。確認できたユーザーの行動に報酬を支払うWeb3広告サービスのEarnOSは、1kx主導で合計$18.5M(株式と引き換えの$6Mと、Veronaからの株式を発行しない$12.5Mの投資)を調達し、Coinbase VenturesやCircle Venturesも参加しました。EarnOSは、zkTLS(通信の中身を相手に見せずに「確かにその通信があった」とだけ証明する技術)を使い、個人データを広告主に渡さずに「実在する人物が実際に行動を終えた」という事実だけを証明します。そのうえで、表示回数やクリックではなく、成果そのものに課金します。

ボットやAIが作り出す偽のアクセスに広告費が無駄に使われる問題は2026年にいっそう深刻になっており、確認済みの行動を価値の単位に置くこの試みは、CoinbaseやCircleが出資する決済インフラとも同じ流れの中にあります。「人間であること」の証明を支払いの条件に変える点で、決済とは別の方向に資金が向かった例といえます。

ここから先に見ておきたい論点

6月15〜21日の週は、投資家がリスクを避ける局面のなかで、資金が規制に対応した銀行・コンプライアンス側に選んで向かいました。ここから先は、いくつかの分かれ道を見ておく価値があります。一つは、GENIUS法の細かい実施ルールが7月18日の期限に向けて固まるなかで、準備金やコンプライアンスを担う事業者にとって有利な状況がどこまで続くかです。もう一つは、a16zが指摘するように利用が同じ国・地域の中や個人へ広がるなかで、この週に見えた銀行側への資金の集中が、新興国の個人送金にまで及ぶのか、それとも発行体と機関投資家にとどまる現象なのかです。そしてデータ市場では、KaikoとBlockworksが始めた統合の動きが、次にどの中堅企業に向かうのか。いずれも、この週の資金の流れが本物のトレンドだったかどうかを、次の週以降に確かめる手がかりになります。

この週の参照ページ

新興国のステーブルコイン決済:

規制対応の銀行・管理層:

データ市場・再編:

RWA・利回り・その他:

あわせて確認したいページ

FAQで確認したい論点

比較検討や社内説明で出やすい疑問を、一次説明に戻れる形で確認できます。

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