2026年第1四半期、暗号資産業界向けのVC(ベンチャーキャピタル)投資額は、前四半期比でほぼ半減の$4Bにとどまりました。
新規ファンド組成の数も2020年以来もっとも少なく、資金の出し手全体が選別的になっています。
6月29日から7月5日の週は、決済大手140社超の連合が発表した新ステーブルコイン(価格を米ドルなどに固定した暗号資産)『Open USD』が最大の話題になりました。発表の直後、Circle株は17%超下落しています。
決済だけでなく、予測市場・私募資産・取引所でも、既存の大手と新規参入者がぶつかる場面がこの週は重なりました。
予測市場(将来の出来事の結果を売買し、その価格を「起こる確率」の目安として扱う市場)ではKalshiが評価額$40Bでの調達を協議する一方、ネバダ・ミシガンなど複数州で法廷闘争が同時に起きています。私募資産(未公開の株式や与信のような、証券取引所を通さない資産)では、Securitizeが自社の株式をニューヨーク証券取引所への上場と同時にトークン化しました。
取引所では、日本でSBIによるBitbank買収の分析が続き、老舗デリバティブ取引所BitMEXは経営陣が同時に離任し、Binanceは規制未対応でEU市場から撤退しています。
決済インフラの新連合、参加社名簿に早くも食い違い
2026年6月30日に発表された新ステーブルコイン『Open USD』は、発表からわずか数日のうちに三つの異なる反応を同時に引き起こしました。
決済大手140社超、Open USDで運用益をシェアする新モデル
Bridgeの共同創業者Zach Abrams氏が率いる新団体Open Standardは、2026年6月30日、Visa・Mastercard・Stripe・BNY・Coinbase・Rippleなど140社超が名を連ねる新ステーブルコイン『Open USD(OUSD)』を発表しました。手数料ゼロのミント・償還(発行と払い戻し)を掲げています。
あわせて、準備金(発行体が価値の裏付けとして持つ資産)の運用益を参加企業間でシェアする仕組みも打ち出しました。単独の発行体が運用益を握るこれまでのステーブルコインとは異なり、決済網に参加する企業ごとに採用の経済的な見返りを持たせる設計です。
Circle株、発表当日に17%超下落
Open USD発表を受けて、ドル連動ステーブルコインUSDCの発行体Circleの株価は同日で17%超下落し、2月以来の安値をつけました。
Circleの収益はほぼ全てが準備金運用益(米国債などの金利収入)に依存する構造で、参加企業に運用益を還元するOpen USDのモデルは、その収益構造そのものへの直接的な脅威と市場に受け止められています。
さらに、Circleの主要な配信提携先であるCoinbaseがOpen USD陣営にも加わったことで、8月に控える提携契約の更新が不利になるという懸念が広がり、Jefferiesが弱気の分析を出すなど、下落幅を押し上げる材料が重なりました。
韓国4社、Open USDへの参加を否定
Open USDのパートナーリストに名を連ねていた韓国企業のうち、Samsung Electronics・Shinhan Financial Group・Dunamu(暗号資産取引所Upbitの運営会社)・K Bankなど少なくとも4社が、正式な参加を否定または留保しました。
Samsungは「正式な協議自体がなかった」とコメントし、他の3社も「参加を打診され検討すると答えたのみで、正式合意はしていない」としています。
この食い違いが起きた背景には、140社超という規模を打ち出したいOpen Standard側の事情があります。連合の説得力はほぼ全面的に「どれだけ幅広く重量級の陣容を組めているか」という規模の物語に懸かっており、予備的な打診段階の企業まで正式パートナーとして扱ってしまう誘因が働いたとみられます。
韓国企業側が迅速に否定に動いたのも、同国の暗号資産規制が厳しく、大企業が正式合意前の提携について慎重な姿勢を取ること自体は珍しくないためです。決済網の主導権を巡る新連合は、既存の二強に経済的な脅威を与えることには成功した一方で、規模の誇示が実態を追い越しているという弱点を、発表からわずか数日で見せた形です。
予測市場の急拡大が、規制の逆風と買収の思惑を同時に呼ぶ
最大手Kalshiは、2026年5月の自社発表で、自社の年換算取引高が$178B規模(スポーツ関連の契約が中心)まで急拡大したと明らかにしています。
この急拡大は、規制する側と評価する側という正反対の相手から反応を引き出しました。
一つは、州にとってスポーツベッティングの税収を予測市場に奪われているという実害で、複数州の法廷闘争を招いています。もう一つは、その規模がもはや取引所インフラとして評価できる水準に達したという、金融・テック大手にとっての機会です。
ネバダからノースカロライナまで、6州で法廷闘争が同時進行
この週、Kalshiを含む予測市場業界はネバダ・ミシガン・オハイオ・ミネソタ・ニュージャージー・ノースカロライナの各州で、同時多発的に法廷闘争や規制対応に直面しました。
表向きの争点は、予測市場のイベント契約(将来の出来事の結果に連動して価値が決まる金融商品)をどう分類するかです。連邦のCFTC(米商品先物取引委員会)が管轄する金融派生商品とみなすか、州法上の無許可ギャンブルとみなすかで意見が割れています。
ただし各州の実質的な動機は税収にあります。CFTC管轄下で営業する予測市場企業は州のスポーツベッティング課税を回避できるため、業界団体の試算では年間$1B超の州税収が予測市場に流出しているとされ、これが今回の同時多発的な反撃の土台になっています。
Kalshiは$22Bから$40Bへ、7週間で評価倍増を協議
Kalshiは2026年5月のSeries F($22B評価、$1B調達)からわずか7週間で、$40B評価目標の新ラウンドを協議していると報じられました(2026年第3四半期のクローズ想定)。
この評価急伸の主な根拠は、CME Groupのような取引所インフラ企業に近いマルチプル(倍率)での値付けです。年換算で約$2B規模の収益に対して約20倍という水準は、急拡大した取引高そのものから直接導かれています。
Metaも買収を検討していた
Metaが2026年6月30日までに報じられたところによると、以前Kalshi買収を検討していたものの、最終的には自社の予測市場アプリを開発する道を選んでいたことが明らかになりました。
買収ではなく自社開発を選んだ判断は、後述するBernsteinの整理(配信網と取引所インフラを併せ持つ企業が経済性を握るという分析)とも整合的です。すでに巨大な配信網を持つMetaにとっては、買収で取引所インフラだけを取り込むより、自社の配信力に予測市場機能を組み込む方が理にかなうという見方ができます。
Bernsteinは配信網統合によるM&Aの波を予想
この評価額そのものを直接説明するのは取引所インフラ型マルチプルですが、もう一段別の需要も見逃せません。証券アナリストのBernstein(CoinDesk経由)は、予測市場業界がスポーツベッティング・消費者金融と一つの業界構造に収れんしつつあり、配信網と取引所インフラの両方を自社で持つ企業が経済性を囲い込み始めていると分析しています。
配信網を持たないKalshiやPolymarketは、この構図のもとでは戦略的な買収対象になり得るとし、予測市場業界でのM&A(合併・買収)の波を予想しています。
この規模拡大から利益を得ているのは、大手だけではありません。予測市場のベンチマークインデックスを手がけるAdjacentは、VanEckやDigital Currency Groupなどから$2.5MのPre-seedを調達し、特定の取引所に属さない中立的な指数の提供を始めています。
この中立指数への需要の背景には、予測市場の価格算定インフラがまだ未成熟だという課題があります。データ企業Kaikoは、現行の価格算定手法(単一取引所の参照や複数市場の集計)がいずれも標準化・操作耐性を欠き、機関投資家の参加障壁になっていると指摘しています。Adjacentのような独立系プロバイダーが解決を狙う課題は、今も残っています。
規制面では、CLARITY法案(デジタル資産市場明確化法)が7月4日の成立目標を逃しました。次の現実的な期限は8月7日とされています。
私募資産のトークン化、発行体主導と貸し手主導という二つの経路
この週、私募資産のオンチェーン化は、Securitizeの発行体主導モデルとTechdollarの貸し手主導モデルという、二つの異なる形で進みました。
株式のようなトークンをAMM(自動マーケットメーカー、プール内の価格だけをもとに取引を成立させる仕組み)で流通させると、全米最良気配(NBBO、全市場の中でもっとも良い価格での執行を求めるルール)に技術的に抵触してしまいます。
SECは6月11日、この抵触の原因となっているRegulation NMSのトレードスルー規則(Rule 611)とロック・クロスクォート制限(Rule 610(e))の撤廃を提案しました。
Securitize、上場と同時に自社株をトークン化
私募資産のトークン化基盤を手がけるSecuritizeは、2026年7月2日のニューヨーク証券取引所上場と同時に、自社株$295M相当(RWA.xyz算出)をSolanaとAvalanche上にトークン化しました。
第三者発行体を支援するだけでなく、自社の資本市場戦略そのものにトークン化(資産の権利をブロックチェーン上のトークンとして発行すること)を組み込んだ形で、発行体主導モデルの実証を自ら示す動きといえます。
SECはAMMと衝突するルールの撤廃を提案
SECがこのタイミングで規則撤廃に動いたのは、Atkins委員長が掲げる「Project Crypto」という規制近代化路線の一環です。AMMはプール内の価格に基づいて取引を執行するだけで、他の市場を照会したりより良い価格がある場合に取引を止めたりすることができません。
この技術的な性質そのものがRule 611の要求と相容れないため、20年前に施行されたこのルールが名指しで撤廃対象になっています。DTCC(米国の証券決済機関)も2026年7月に米国株・ETF・国債のトークン化証券の限定的な本番パイロットを開始する計画を示していますが、この週のうちに稼働を確認する報道は見つかりませんでした。
発行体が自ら株式をトークン化する経路とは別に、株式そのものではなく与信債権をトークン化することで同じ流動性問題を回避する経路もあります。未公開株を担保にオンチェーンで与信を提供するTechdollarは、Curve Finance創業者のMichael Egorov氏をエンジェルに迎えて$3MのPre-seedを調達し、この貸し手主導のモデルを進めています。
背景にあるのは、未公開企業側の資金需要です。
時価総額$500Mを超える未公開企業が上場(IPO)に至るまでの期間は10年超に延び、主要な未公開AI企業の時価総額合計は$2.7Tを超えています。2025年のセカンダリー市場(未公開株の上場前流通市場)取引も$226Bに達しました。
Techdollarにはサービス本格提供前の段階で総額$400M超の融資申し込みがあり、うち$100M超が審査を通過しているとされ、株式を売らずに資金を得たいという実需の大きさを示しています。
この経路が必要とするのは公開市場の気配値ではなく、決済インフラの機関品質化です。BNY MellonとStandard Charteredという2つのG-SIB(国際的にシステム上重要とされる銀行)が、同じ週にUSDCのミント・償還への機関投資家向け直接アクセスを相次いで拡張しており、この整備を後押ししています。
ただし、どちらの経路にも共通する留保材料があります。RWA(現実資産をトークン化する仕組み)の流動性についての学術分析が、この点を指摘しています。
私募株式や私募クレジットのようなイリキッド(換金しにくい)な資産は、トークン化しただけでは流動性が自動的に生まれるわけではないという指摘です。Techdollarの与信モデルが前提とする、担保となる未公開株の価値評価や換金しやすさについても、この留保は当てはまります。
既存の取引所に、統合・撤退・経営刷新が同時に起きた週
日本、EU、そして老舗デリバティブ取引所。既存の取引所プレイヤーは、この週、統合・撤退・経営刷新という形で立て続けに揺れています。共通するのは、規制対応コストの上昇という圧力です。
SBIのBitbank買収、次の統合候補はbitFlyerとの分析
2026年6月下旬に発表されたSBI HoldingsによるBitbank買収($289M)について、投資助言会社のArchitect Partnersが追加の分析を示しました。狙いは取引収益ではなく、規制済みのステーブルコイン流通基盤を確保することにあるとし、日本の認可済み取引所27社のうち約半数が今後撤退・統合しうると予測しています。
背景には、6月に成立した改正法で暗号資産が金融商品取引法の枠組みに移り、資本・カストディ・開示のコンプライアンスコストが上がる一方、既存の認可済み取引所の多くがすでに不採算という事情があります。免許を一から取得するより既存の免許取引所を買収する方が合理的だという経済性から、Architect Partnersはすでに大手の傘下にあるbitFlyerを「次の統合候補」として名指ししました。
今回のBitbank買収そのものも、単なる出資ではなく、SBIの完全子会社SBICAHが個人株主から株式を取得し、既存法人株主のMIXI・セレス(合わせて約50%保有)の株式も自己株式として買い取る完全子会社化のスキームです。
統合後はSBI VCトレードと合わせて口座数約292万・預かり資産約$6.8B(約1兆1000億円)となり、預かり資産で国内首位に立つ見込みで、規模の確保という狙いを具体的な数字が裏づけています。
Binance、MiCA認可を得られずEUから撤退
最大手取引所のBinanceは、2026年6月26日、ギリシャでのMiCA(EU域内で暗号資産事業を営むために必要なライセンス制度)の認可取得に失敗したと発表し、7月1日からEUでのサービスを停止しました。同じ規制対応コストという条件のもとで、日本の取引所とは逆に、具体的な認可基準を満たせなかった結果としてEU市場からの撤退に至った形です。
BitMEXでCEO・CFO・成長責任者が同時に離任
老舗デリバティブ取引所BitMEXでは、CEO・CFO・Chief Growth Officerの3名が同時に離任しました。複数の報道は、買い手を探しているとされるなかでのコスト削減・体制刷新という文脈でこの離任を位置づけていますが、買収観測自体は以前からの推測報道の引用にとどまり、今回新たに検証された事実ではありません。
ここから先に見ておきたい論点
このうち、もっとも材料が重なっているのが予測市場です。
予測市場を取引所インフラとして評価する今の資本の流れが本物かどうかは、いくつかの具体的な節目で見極めがつきます。
CFTCの規則案のコメント期限である2026年7月27日、CLARITY法案の次の実質的な期限とされる8月7日、そしてKalshiの$40B評価ラウンドが第3四半期中に実際に成立するかどうかです。これらの結果次第では、法的な位置づけが定まらないまま評価額だけが先行してきたこれまでの流れが、一定の蓋然性で修正を迫られます。
同じ週の終盤には、資金の巡り全体を左右しかねないマクロの動きもありました。6月の米雇用統計は非農業部門雇用者数が+5.7万人と、市場予想の11.5万人を大きく下回りました。
これを受けて9月の利下げ観測が強まり、8週連続で流出していた米国スポットビットコインETFに、7月2日には一時的な資金流入が戻っています。冒頭で触れた暗号資産業界向けVC投資の選別姿勢を踏まえると、この巻き戻しが一過性のものか、資金がリスク資産に戻る本格的な転換点になるのかは、まだ見極めがつきません。
この週の参照ページ
予測市場・イベント取引:
私募資産トークン化: