2026年8月3日から9日の週、Ethereumの研究者らは8月4日、バリデータ報酬をステーキング比率50%接近に応じて段階的にバーンする提案「EIP-8363」を提出しました。
少数の事業者への集中と、保有し続けるだけの人の資産価値の目減りをどちらも防ぐという触れ込みですが、賛成派はETHの通貨的健全性を強めると説明する一方、ether.fiのCEO、Mike Silagadze氏は採用されれば集中化がむしろ悪化すると$1Mを賭けて反対を表明しました。
Aave創業者のStani Kulechov氏も、DeFi(分散型金融)の担保金利の予測しやすさが崩れかねないと、別の角度から懸念を示しています。Ethereum Validators協会の調査では、回答者の99.77%が反対したと報じられました。この提案は現時点でdraft(草案)段階にとどまり、賛否の決着はついていません。
これとは別に、CLARITY法(米国の暗号資産市場構造法案)は、この週も上院で足踏みしました。それでもRippleとNomura傘下のLaser DigitalはRWA(現実資産)のトークン化インフラへ、SC VenturesとSonyはYellow Cardのステーブルコイン決済網へ、それぞれ別の具体的な理由で資本を投じ、BlackRockは自社のトークン化マネー・マーケット商品を新たに立ち上げています。
これらの動きに、共通する一つのきっかけはありません。それぞれ別の理由から、同じ週に重なりました。規模の異なる物理AI(ロボットや自動運転など、物理世界で動作するAI)のデータ基盤にも、暗号資産ネイティブ投資家の資金が入り、分散型空間データ網のVangridは$9MのSeedラウンドを確定させています。
EIP-8363の発行量バーン案にether.fi CEOが$1M賭け
ETHのステーキング比率が50%という節目に近づくなか、集中化と希薄化を防ぐための提案が賛否を二分しています。
ステーキング比率が50%に近づき、集中化と希薄化への対応案が浮上
ETHのステーキング比率(発行済みETHのうち、ネットワークの検証作業に預けられている割合)は、すでに33%を超えて上昇を続けています。Ethereum Foundation(イーサリアム財団)の研究者は、2023年からこの水準を注視してきました。
50%という節目に近づくほど、少数の大手カストディアン(暗号資産の保管業者)への集中と、ステーキングしない保有者への継続的な希薄化という2つのリスクが強まると整理されています。
Ethereumの研究者らは2026年8月4日、この構造的な懸念への対応として、バリデータ報酬をステーキング比率の上昇に応じて段階的にバーンする提案「EIP-8363」を提出しました。提案は、比率が50%に達するまでの18か月をかけてバーン率を引き上げ、50%を超えた段階では通常の検証報酬をほぼすべてバーンする設計です。
ether.fi CEOが$1M賭け、Aave創業者もDeFi担保への影響を懸念
提案の目的は集中化の防止ですが、実現するかどうかには鋭い対立があります。流動性再ステーキング(預けたETHの流動性を保ったままステーキングする仕組み)プロトコルether.fiのCEO、Mike Silagadze氏は2026年8月7日、EIP-8363が採用されればバリデータの集中化はむしろ悪化すると$1Mを賭けて公に主張しました。
同氏の論拠は、大手カストディアンは顧客から預かった大量のETHを限界費用ほぼゼロで運用できる一方、一律の報酬削減は個人のソロステーカー(自分でバリデータを運営する個人)に実質的に重くのしかかるというものです。
Aaveの創業者Stani Kulechov氏も、別の角度から懸念を示しています。ステーキング利回りが予測しにくくなれば、DeFiが担保の基準金利として使ってきたステーキング利回りの安定性が崩れかねない、という指摘です。
反対99.77%、Hegotaアップグレード直前の提出という審議期間の短さ
賛成派の立場も存在します。Ethereumメディア「Bankless」のDavid Hoffman氏は、発行量バーンがETHの通貨としての健全性を強め、ステーキングしない保有者を希薄化から守ると主張しています。
ただしEthereum Validators協会が実施した調査では、回答者の99.77%が反対したと報じられました。この提案は現時点でdraft(草案)段階にとどまり、正式な採用やスケジュール化はされていません。
提出のタイミングにも批判があります。Hegotaアップグレードのプロトコル改善提案(PFI)締切のわずか48時間前という提出時期が、金融政策の根本に関わる変更を審議するには短すぎるという指摘です。
賛否のどちらが正しいかは、現時点でも未解決のままです。この対立が実際にどちらの方向へ動くかは、EIP-8363または修正版が今後のフォークのPFIリストに正式に組み込まれるかどうかと、ステーキング比率が33%から50%という節目にどこまで近づくかによって、一定の蓋然性で見えてくるとみられます。
RWAトークン化市場$36.8Bへ、週内に戦略出資とローンチが重なった
RWA(現実資産)のトークン化市場は、2026年8月2日時点で$36.8B(保有者数1.35M超)まで拡大しています。この拡大のさなか、RippleとNomura傘下のLaser Digitalは同じ週のうちに戦略出資を決め、BlackRockは自社のトークン化商品を新たに立ち上げました。
Rippleが同じ日にLicuido・ZILOへ戦略出資
Rippleは2026年8月3日、ファンド持分をXRP Ledger上でトークン化する英国のLicuidoと、ファンドの投資家名簿を管理するtransfer agency(名義書換・移転代理業務)基盤のZILOに、同じ日で戦略出資しました。金額はいずれも非公開です。
Ripple幹部は、トークン化した持分を発行するだけでは価値の一部しか引き出せないと説明しています。担保として即座に差し入れたり売買・決済したりできる仕組み(Licuidoが担う領域)と、投資家ごとの持分を正確に記録し続ける名簿管理(ZILOが担う領域)を対で揃えることで、初めて機関投資家が本番運用に移れるという判断です。
この投資余力の背景には、2025年8月のSEC和解(米証券取引委員会との和解)があります。「XRPは証券に当たるか」という法的な不確実性が取り除かれたことで、Rippleは同様の機関向け投資を続けやすくなりました。前週にはAviva Investorsがトークン化ファンドのシェアクラスを同じXRP Ledger上で開始しており、Rippleは同じ月のうちに、今回の2社にも出資を決めています。
BlackRockも同じ日にBSTBL・BRSRVをローンチ
BlackRockも同じ2026年8月3日、2つのトークン化マネー・マーケット商品(短期国債などで運用する低リスクの投資信託)、BSTBLとBRSRVを立ち上げました。いずれもGENIUS Act(米国のステーブルコイン規制法)が定める、ステーブルコイン発行体の準備資産としての適格性を意識した設計です。
背景には2つの規制上の動きがあります。GENIUS Actが準備資産の適格基準を定めつつあることに加え、CFTC(米商品先物取引委員会)がトークン化マネー・マーケット・ファンドをクリアリング担保として認める案を検討中です。認められれば、トークン化MMFは待機資金の置き場から、デリバティブ取引などで使える中核担保へ格上げされます。
BlackRockはすでにCircleの準備金約$60Bを管理しており、この分野で先に適格性を確保することは、反復的な手数料ビジネスを広げる狙いとも一致します。
Nomura傘下Laser DigitalはZIGChainでMENAP私募与信へ
Nomura(野村ホールディングス)傘下のデジタル資産部門Laser Digitalは、RWA向けLayer1のZIGChainに戦略出資しました。発表は2026年8月5日、金額は非公開ですが単一桁の百万ドル台と報じられています。出資は、中東・北アフリカ・パキスタン(MENAP)地域向けのパートナーシップとセットです。私募債(未上場企業などへの直接融資)のオンチェーン化を対象としています。
この出資は、Nomuraが2026年2月にLaser Digitalのリスク上限を引き締めた後の動きです。四半期利益が暗号資産関連の損失で圧迫されたことを受けた措置で、今回のZIGChain出資も、広範な暗号資産リスクへの再参入ではなく、選別的でリスク管理された関与という性格が強いとみられます。
ZIGChain自身の説明によれば、Cosmos SDK(複数のブロックチェーンをつなぐ開発基盤)による独立したチェーンとして、資産運用会社が投資戦略をオンチェーンで組成・配信できる設計にしていることも、この種の機関資本を引き寄せる理由の一つです。
Ripple・Laser Digitalの出資は金額こそ非公開のものが目立ちますが、BlackRockのローンチも合わせて見ると、新しい資産を一から作るのではなく、発行済みのトークンを担保や準備資産として実際に活用できるようにする土台づくりへ、それぞれの形で動いています。CLARITY法が9月14日の上院再開後に採決へ進むかどうかは、この動き方が今後も続くかどうかを占う、反証可能な最初の分かれ目になります。
ステーブルコイン決済網に$40M、銀行系とコングロマリット系の資本が新規参加
ステーブルコインの時価総額は、GENIUS Actによる銀行接続の広がりを背景に、2026年3月14日時点で過去最高の$320Bに達したと報じられています。銀行・コングロマリット系の資本は、既存の取引先を引き留めたい側と、新しい接点を得たい側の両方から、Yellow Card・InvestiFi・JPYCという3件のステーブルコイン決済インフラに新規参加しています。
Yellow Cardに$40M、SC VenturesとSonyが新規参加
パンアフリカのステーブルコイン決済インフラYellow Cardは、SC Ventures(Standard Chartered系)とSony Innovation Fundを新規投資家に迎え、Strategicラウンドで$40Mを調達しました。既存投資家のPolychain CapitalとBlockchain Capitalも再出資しており、累計調達額は$120M超に達しています。
資金は、企業向けドル口座「Global USD Accounts」の拡充と、ラテンアメリカ・APAC地域への展開に充てられます。CEOのChris Maurice氏は、コルレス銀行(国境を越えた送金のために銀行同士が結ぶ中継口座の仕組み)を介さない送金インフラを長年築いてきたことへの信任だと述べています。
SC VenturesとSonyの参加は、コルレス銀行網の多段階決済や不透明な為替スプレッドといった非効率をステーブルコインが解消するという経済合理性に加え、フィンテック仲介事業者に顧客接点を奪われる前に自ら押さえておくという競争上の動機もあると見られます。
ただしSC VenturesはすでにGSRへ$1B評価額で出資済みで、Sonyも自社のSoneium(Ethereumのレイヤー2、取引をまとめて処理し手数料を下げる仕組み)をStartale経由で2023年から支援しています。今回は「ステーブルコイン決済という特定の賭けへの初参加」と狭く理解する必要があります。
InvestiFiは自社の信用組合顧客から$20Mを調達
米国のクレジットユニオン(信用組合)向け組込み投資プラットフォームのInvestiFiは、自社の顧客であるVibe Credit Union主導で$20Mを調達しました。BankTech Venturesのほか、Idaho Central Credit Unionなど複数のクレジットユニオンが参加しています。
資金の出し手が自社の導入先金融機関自身である点が特徴です。CEOのKian Sarreshteh氏は、顧客金融機関のエンドユーザー普及を最大化し、外部の投資プラットフォームへ流出した口座保有者と預金を取り戻すことが狙いだと説明しています。背景には、Z世代・ミレニアル世代の預金者が、投資も預金も一つのアプリで完結するフィンテックのワンストップ型サービスへ移る動きがあります。
日本ではJPYCに物流大手AZ-COM Maruwaが新規出資
日本では、円建てステーブルコインのJPYCが、物流大手AZ-COM Maruwa Holdingsを新規投資家に迎え、Series Bを$38M規模に拡張しました。累計調達額は、2021年11月以来7回のラウンドを経て$106Mに達しています。AZ-COM Maruwaは、Amazon Japanの出品者を含む約2,300の取引先への決済をJPYCで行う計画です。
背景には、高齢化と運転手への時間外規制強化で人手不足が進む物流業界で、決済を速くすることで希少になった取引先を惹きつけたいという狙いがあります。日本の資金決済法が発行体を銀行・資金移動業者・信託会社の3類型に限定し、準備資産の全額分別管理とFSA(金融庁)監督下での随時償還を義務づけていることが、リスクに慎重な物流大手がステーブルコインへの出資に踏み切れた規制上の土台になっています。
ステーブルコイン時価総額$320Bという水準が続く限り、銀行・コングロマリット系資本による同様の参加は、一定の蓋然性で今後も続くとみられます。
物理AIデータ基盤への資金、「ほぼ2倍」は金額でなく件数の話
暗号資産ネイティブの投資家からは、物理AI向けのデータ基盤にも資金が向かいました。分散型空間データ網のVangridは、HashKey、Animoca Brands、Crypto.com Capitalなど6社が参加したSeedラウンドで$9Mを調達しています。
Vangridが解こうとしているのは、物理AIの学習データがテキストと違いインターネットから収集できず、身体性を伴う収集にコストがかかるという構造的な課題です。
世界中のスマートフォンを空間データの収集ネットワークとして使い、撮影データの検証や貢献者への報酬支払いをオンチェーンで処理する設計です。専用車両を使う中央集権型の競合に対しては、アプリのダウンロード数に比例して拡張し続けるという鮮度の優位性を訴えています。
会社側は、Metaが$14.3Bを投じてScale AIの49%持分を取得した動きに象徴される、物理AI分野への資金拡大を自らの調達の追い風として引用しています。New Market Pitchの集計では、2026年のディール数は前年のほぼ2倍だとされています。
しかし同じ集計の実数を見ると、伸びているのはディール数(12件から25件)であり、資金額は$1.04Bから$7.38Bへと拡大しています。
比較対象として挙がっている案件を見ると、中央値$165Mという中央集権型ロボティクス・基盤モデル企業の大型ラウンドで占められており、DePIN(分散型物理インフラ)に類する案件は見当たりません。Vangridの$9M調達とは、規模も性質も異なる資本市場を指しています。
データ収集という技術的なボトルネックへの具体的な解決策として暗号資産ネイティブ投資家の関心を引いたことは確かですが、Metaが牽引する規模の物理AI投資とは、資金の出し手も規模も異なります。暗号資産ネイティブ投資家がこの分野に関心を持つ流れ自体は続きうるものの、中央集権型の大型ラウンドとの資本規模の差は、比較対象の構成が変わらない限り、不透明な要素として残ります。
CLARITY法の次の分岐点は、9月14日の上院再開にある
米国の暗号資産市場構造法案CLARITY法は、この週も上院の本会議採決に進みませんでした。上院院内総務のThune氏は8月8日、動議提出という手続き上の一歩を踏み出しましたが、これは可決に必要な60票のクロージャー(討議終結)へ向けた最初の段階にすぎません。
採決が進まない理由は、公職者に関する倫理条項やステーブルコインの報酬規定など、複数の争点が解決していないことにあります。上院は9月14日に再開する予定で、この規制の未完成は、RWA・ステーブルコインインフラへの機関側の個別の戦略出資という動き方の背景条件になっています。
CLARITY法が9月の会期で実際に本会議採決へ進み、倫理条項をめぐる対立が解消されれば、包括的な市場構造の確実性を待つコストが下がり、機関側が二者間の戦略出資という手段だけに頼る理由は薄れます。逆に9月も採決に進まなければ、GENIUS Actの限定的な確実性を使った同種の投資は、高い可能性でこの先も続くとみられます。
このほか、Web3ロイヤルティ基盤のBundle($5.5M)や、予測市場向け流動性インフラのFortune Protocol(Pre-A、金額非公開)も、この週に資金を調達しています。
参照ページ
RWAトークン化インフラ:
- ファンドトークン化基盤のLicuidoにRippleが戦略出資(金額非公開)
- ファンド名簿管理のクラウド基盤ZILOにRippleが戦略出資(金額非公開)
- RWA向けLayer1のZIGChainがLaser Digitalから戦略出資を獲得(金額非公開)
ステーブルコイン決済網への新規参加:
物理AI向けデータ基盤:
このほかの調達:
参考リンク
本文中で名前を挙げた発表・分析・データの出典です。
EIP-8363の発行量バーン案:
- Ethereum Magicians「EIP-8363: Tapered Issuance Burn」(提案本体)
- CryptoBriefing「Ether.fi CEO Mike Silagadze places $1M bet on EIP-8363」($1M賭けの詳細)
- Bankless「Breaking Down Ethereum’s New Issuance Debate」(賛否両論の整理)
RWAトークン化インフラ:
- CoinDesk「BlackRock expands tokenized cash with new blockchain-based money market offerings」
- FXDailyReport「RWA Market Reaches $36.8 Billion as Institutional Tokenization Accelerates」
- Cointelegraph「Ripple Invests in Zilo, Licuido in Tokenized Capital Markets Push」
- CoinDesk「Nomura’s Laser Digital backs ZIGChain for onchain private credit push in UAE」
- 24/7 Wall St.「What’s Behind XRP’s Institutional Push in Late 2025?」(2025年8月のSEC和解の経緯)
- CoinDesk「Tokenization’s Breakout Asset Class: Tokenized Money Market Funds」(CFTCによるクリアリング担保認定の検討)
- Zeeve「Building RWA Chain with Cosmos SDK: Is It Really a Good Idea?」(Cosmos SDKによるRWAチェーン設計の解説)
ステーブルコイン決済網への新規参加:
- CoinDesk「Yellow Card raises $40 million to link banks to stablecoin processing」
- CoinDesk「Standard Chartered expands further into crypto with stake in GSR at $1 billion valuation」
- fintech.global「InvestiFi lands $20m to boost embedded investing」
- TRM Labs「From Curiosity to Custody: How US Community Banks and Credit Unions Are Entering Digital Assets」
- CoinDesk「JPYC raises $38 million Series B led by major Japanese logistics firm AZ-COM Maruwa」
- CryptoTicker「Stablecoin Market Cap Hits $320 Billion as Institutional Adoption Goes Vertical」
物理AI向けデータ基盤:
- The Block「DePIN project Vangrid raises $9 million in token round to build spatial data network for physical AI」
- New Market Pitch「Physical AI Funding Trends (2026)」
CLARITY法の審議状況: