機関投資家向けパブリックL1 @CantonNetwork を手がける Digital Asset が、BNY や Nasdaq らから約$50Mを調達 iCapital、S&P Global などが参加
今回の約$50Mの戦略的出資は、2025年6月の$135Mラウンドに続く追加調達であり、Canton Network 上への RWA オンボードと採用拡大を加速させる目的とのこと
チーム
Digital Asset は 2014 年に Don Wilson(DRW 創業者)らが共同創業したフィンテック企業で、分散台帳インフラとスマートコントラクト言語 Daml を金融機関向けに提供してきました。創業初期には、元 JPMorgan 商品部門トップの Blythe Masters が CEO を務め、ASX や DTCC など大手インフラとの案件を通じて一定のポジションを築いています。
現在の CEO である Yuval Rooz は、Digital Asset の共同創業者の一人で、以前は Citadel や DRW でアルゴリズムトレーディングデスクや VC 部門の立ち上げに関わっていたそうです。CFTC の Global Market Advisory Committee や Global Blockchain Business Council のボードメンバーを務めるなど、規制当局との対話も担っているとのことです。
プロジェクト概要
Canton Network は、Digital Asset が開発した機関投資家向けパブリックL1で、トークン化証券やレポ、マネーマーケットファンドなどの既存インフラを相互接続し、プライバシーとコンプライアンスを維持したままアトミック決済を行うことを目的としています。公式発表では、$6T超のオンチェーン資産を支え、600社超の機関がエコシステムに参加しているとされています。
ネットワークは Daml スマートコントラクトと Canton プロトコルの上に構築されており、トランザクションのプライバシーをサブトランザクション単位で制御できる点が特徴です。
一般的なパブリックチェーンのように、単一のレジャー全体を全ノードに複製するのではなく、各 participant ノードが「自分がステークホルダーとして関与する契約だけ」を保持し、そのコミットメントを同期ドメイン経由で共有する「virtual shared ledger」モデルを採用しています。
ユースケースは、国債や社債、株式、マネーマーケットファンド、オルタナティブファンド、コモディティ、レポ、モーゲージ、生命保険・年金など、既存の資本市場プロダクトが中心です。
Canton 上では、こうしたアセットを跨いだ担保管理やマージン管理、ポストトレード処理を、異なるアプリケーション間でアトミックに同期させることを目的としています。
アーキテクチャ
Canton Network の基盤となる Canton プロトコルは、Daml で書かれたスマートコントラクトを複数の機関間で実行しつつ、プライバシーと整合性を両立させることにフォーカスしています。パーティ(契約当事者)は participant ノードに紐付き、participant 同士は sync domain と呼ばれる同期ドメインを介してメッセージを交換します。
sync domain 内では sequencer がメッセージの全順序を付け、mediator が各 participant からの承認・否認を集約してトランザクションのコミットを決定する構造です。
プライバシー面では、「サブトランザクション・プライバシー」と「データ最小化」が設計の中心に置かれています。全参加者に複製される単一レジャーは存在せず、各ユーザーは権限を持つデータだけから成る自分のレジャーを維持する設計です。
この点が、一般的なプライバシーチェーンとの決定的な違いです。
多くのプライバシー志向 L1/ロールアップは、暗号化トランザクションを全バリデータに配布し、ZKPなどで整合性だけを検証する「暗号化+全複製」モデルを取ります。一方 Canton では、「関係当事者以外の participant には、そのトランザクションに関するデータ自体を配布しない」「利用者ごとに見える部分ビューだけからなる virtual shared ledger を構成する」という方針になっており、データの所在そのものを最小化する設計です。
ネットワーク全体の同期は、Global Synchronizer と呼ばれる BFT コンセンサスレイヤが担います。複数の sync domain から集約された暗号化メッセージに対してスーパー・バリデータが 2/3 合意で順序付けと確定を行い、その結果を各 participant に配信することで、アプリケーションやサブネットを跨いだアトミックトランザクションを実現します。Global Synchronizer 自体はトランザクションの中身を復号しない「ブラインド」なメッセージルータとして設計されており、インフラ運営者が業務データにアクセスできないことを前提にしています。
手数料とインセンティブには Canton Coin(CC)が使われます。CC は Global Synchronizer のトランザクションフィー支払い手段であり、バリデータやスーパー・バリデータ、アプリケーションプロバイダへの報酬として分配されます。トークン供給は burn-and-mint equilibrium(BME)モデルに基づく動的サプライで、プレマインやプレセールは行われず、ネットワーク参加に対する報酬としてのみ配布されると説明されています。2025年10月時点のエコシステムレポートでは、月間 1,500 万件超の CC トランザクションが処理されているそうです。
改ざん耐性と可用性
ここまで読んだ方は、「関係各位しか履歴を持たないのなら、DB棄損が致命傷になるのでは?」と疑問を持った方もいると思います。
Canton では各 participant が部分ビューだけを保持する一方で、そのコミットメント(状態ハッシュ)は他のステークホルダーや sync domain と共有され、virtual shared ledger に確定された view は削除されないとされています。さらに、シーケンサ側には暗号化された履歴が保存され、participant の DB が飛んだ場合でも鍵と履歴が残っていれば再構築できるそうです。
ただし、Bitcoin/Ethereum のように一般的なブロックチェーンのように全ノードが共通のデータをもつ形式に比べると、バックアップ運用や DR 設計に対する前提が重い構造である点は、バリデータ/participant を運用する側が明示的に意識しておく必要があります。