組み込みウォレット(embedded wallet、アプリやサービスの内部に組み込まれ、利用者が別途ウォレットアプリを用意しなくても使えるノンカストディアルウォレット)インフラの Magic(運営会社 Magic Labs)が、ウォレット事業を Payward(暗号資産取引所 Kraken の運営法人)に売却。買収額は非公開です。発表は2026年7月27日で、取引は資産譲渡(アセットセール)の形をとり、Magic Labs と Payward は取引完了後も別法人として存続します。
プロジェクト概要
Magic Labs は2018年設立のウォレットインフラ企業で、開発者がアプリにノンカストディアルウォレット(利用者自身が秘密鍵を管理する形式のウォレット)を組み込めるようにする「ウォレット・アズ・ア・サービス」を手がけてきました。利用者はシードフレーズ(復元用の単語列)の管理やウォレットアプリのインストールを意識せず、メールアドレスやソーシャルログインだけでオンチェーンの資産にアクセスできます。これまでに6,000万件超のウォレットを発行し、Polymarket や WalletConnect、Naver など20万人超の開発者・アプリに採用されてきたとのことです。累計のステーブルコイン決済処理額は$10B(100億ドル)を超えると報じられています。
Magic Labs はこのウォレット事業と並行して、Newton Protocol と呼ばれる別プロダクトの開発を進めてきました。Newton はオンチェーン取引を実行する前に、本人確認(KYC)や制裁対象者スクリーニング、地域制限、支出上限といったコンプライアンスルールを検証する「認可レイヤー(authorization layer)」です。分散型のバリデータ群と暗号学的な証明、ゼロ知識技術(取引の中身を明かさずに条件を満たしていることだけを証明する技術)を組み合わせることで、プライバシーを保ちながらルール順守を検証できると説明されています。2026年6月にメインネットのベータ版が稼働を始め、最初の製品として機関投資家向けの資産保管(ボールト)サービス VaultKit を打ち出しています。
Paywardの買収戦略とNewton Labsへの転身
今回買収するPaywardは、暗号資産取引所Krakenの運営法人です。SECの提訴資料でも「Payward, Inc. and Payward Ventures, Inc. (d/b/a “Kraken”)」と記載されており、Payward がKrakenブランドを運営する法人であることは行政文書上でも確認できます。Paywardは2026年に入ってから、デリバティブ取引所Bitnomialを$550Mで、決済インフラのReapを$600Mで買収するなど、企業向け(B2B)サービス基盤の拡張を続けてきました。あわせて$20B(200億ドル)評価額での資金調達とIPO準備も進めているとされ、報道各社はこれを、上場を見据えて取引・カストディ・デリバティブ・決済に続く事業ポートフォリオを積み増す動きと位置づけています。今回のMagic Labsウォレット事業の取得も、この一連の買収の延長線上にあり、Payward の法人向けプラットフォーム「Payward Services」に組み込みウォレット機能を加える狙いです。
Magic Labs CEO(発表後はNewton Labs CEO)の Sean Li 氏は、The Block の取材に「この移行によって、オンチェーン金融の認可レイヤーであるNewtonに全力を注げるようになる」とコメントしています。氏は自身のX投稿でも、ウォレット事業によるオンボーディング(利用者の導入)を会社のミッションの「パート1」、そしてオンチェーンに流入した資本を守るNewton Protocolへの専念を「パート2」と位置づけ、今回の売却を段階的な事業転換として説明しました。ウォレット事業はPayward Servicesに移り、既存の6,000万件超のウォレットと開発者基盤を引き継ぐ一方、Magic Labs は社名をNewton Labsに変更し、Newton ProtocolとVaultKitの開発に経営資源を集中させます。
既存ユーザーへの影響
既存のウォレット顧客・開発者への影響について、Magic LabsとPaywardは「移行作業は不要、破壊的変更もなく、新しいAPIエンドポイントへの切り替えも不要」と説明しています。アプリや連携サービスはそのまま動作を続け、利用者は特別な対応をせずにサービスを使い続けられる見込みです。取引完了は「数週間以内」とされ、一部報道では2026年8月1日を移行の目安として挙げています。
X上の反応を確認した範囲では、批判的な論調は目立ちませんでした。分散型のオンボーディングツールが中央集権的な取引所グループの傘下に入ること自体は、理論上は「非中央集権の理念からの後退」といった見方を招きうる論点ですが、実際の投稿では移行がシームレスである点を評価する声や、ウォレットインフラの統合をブロックチェーン普及の追い風とみる声が中心で、明確な反対意見や「身売り」批判は見当たりませんでした。
参考リンク
https://www.theblock.co/amp/post/409705/kraken-parent-payward-acquires-magic-labs-embedded-wallet-business https://cointelegraph.com/news/kraken-parent-payward-acquires-magic-labs-wallet-business https://cryptonews.net/news/market/33209819/ https://en.bloomingbit.io/feed/news/117089 https://moneycheck.com/kraken-parent-payward-expands-wallet-stack-with-magic-labs-embedded-wallet-deal https://www.coindesk.com/business/2026/04/17/kraken-s-parent-company-payward-to-acquire-derivatives-exchange-bitnomial-for-usd550-million-in-cash-and-stock https://www.sec.gov/enforcement-litigation/litigation-releases/lr-26278 https://x.com/seanli/status/2081723293346963846 https://crypto-fundraising.info/projects/magic/ https://t.me/crypto_fundraising/5300